恍惚境こうこつきょう)” の例文
覆面の見物たちは、はじめのうちは、一種の恐怖のためにわなわな震えているものがあったが、そういう人々も、いつしか恍惚境こうこつきょうにはいっていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夢と幻とを合わせたような、恍惚境こうこつきょうの只中に、彼女ははいっているのであった。そして彼女は、異形いぎょうの人から説教を聞いているのであった。異人は日本の人ではない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……(沈黙。眼をつむったまま異様な恍惚境こうこつきょう)ほら。聞えないのかい? 貴様には聞えないのかい?
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
青年の腕の下にある小山嬢の顔が、急にあおくなり、それからこんどは赤くなった。彼女のしっかり閉じられたまぶたの下に大きな眼玉がごろんと動くのが見えた。彼女は恍惚境こうこつきょうに入っているらしい。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)