御先おさき)” の例文
そこで給仕に、今湯に這入りかけているからね、少し時間が取れるかも知れないから、田中さんに、どうか御先おさきへと云ってくれと頼んだ。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
えい! 何というおおせだ。この忠直が御先おさきを所望してあったを、お許されもせいで、左様な無体むたいを仰せらるる。所詮は、忠直に死ね! というお祖父様の謎じゃ。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこで手拭をぶらげて、御先おさきへと挨拶をして、風呂場へ出て行つた。風呂場は廊下の突き当りで便所の隣りにあつた。薄暗うすぐらくつて、大分不潔の様である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
女はやがて風呂敷包を元の通りに結んだと見える。蚊帳かやの向ふで「御先おさきへ」と云ふ声がした。三四郎はたゞ「はあ」と答へた儘で、敷居に尻を乗せて、団扇を使つてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)