大観音おおがんのん)” の例文
駒込こまごめのある寺の一間ひとまを借りて勉強するのだといっていました。私が帰って来たのは九月上旬でしたが、彼ははたして大観音おおがんのんそばの汚い寺の中にこもっていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大観音おおがんのんそばに間借をして自炊じすいしていた頃には、よく干鮭からざけを焼いてびしい食卓に私を着かせた。ある時は餅菓子もちがしの代りに煮豆を買って来て、竹の皮のまま双方から突っつき合った。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大観音おおがんのんの前に乞食こじきがいる。額を地にすりつけて、大きな声をのべつに出して、哀願をたくましゅうしている。時々顔を上げると、額のところだけが砂で白くなっている。だれも顧みるものがない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)