大名物おおめいぶつ)” の例文
益なきものを作るのは、美を乱す所以と知らねばならぬ。かつてあの「大名物おおめいぶつ」は貧しい日常の用器に過ぎなかったではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いくら大名物おおめいぶつのこけ猿でも、いのちには換えられない……と、与吉が、ころがるように逃げて行ったあと。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今日「大名物おおめいぶつ」と呼称される名器の一切は実に雑器類であったではないか。悉くが元来は「下手物」である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「いずれ、また会う。それまで、壺を離すなよ。天下の大名物おおめいぶつこけ猿の茶壺、せいぜい大切にいたせ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さすがに「大名物おおめいぶつ」は美しい器物です。すべてが真の民器だからです。かつて茶人達はあの華美な、技巧の複雑な貴族的なものを、茶器に選んだことがあったでしょうか。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
多くの人をさわがせ、世に荒波をかきたてたとも見えず、何事も知らぬ顔にヒッソリと静まり返っているところは、さすが大名物おおめいぶつだけに、にくらしいほどのおちつきと、品位。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの「大名物おおめいぶつ」は皆数銭もしない日常品たる「下手物」である。茶室といえども民家の美が規範である。彼らは「民」の世界に最高な美の姿を見た。渋さの美、げんの美を見た。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
さすが蔵帳くらちょうの筆頭にのっている大名物おおめいぶつだけに、神韻しんいん人に迫る気品がある。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かつてあの「大名物おおめいぶつ」は貧しい日常の用器に過ぎなかったではないか。あの茶人たちがしずを切って、簡素な器で茶をてた時、聖貧の徳に宇宙の美を味わっていたのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だがその中で、大名物おおめいぶつ中の大名物は「喜左衛門井戸」である。まさに「井戸」の王と称えられ、これに優る茶碗はない。名器多しといえども「喜左衛門井戸」こそは天下第一の器物である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
人々は忘れ去ったのであろうが、今日万金を投ずるあの茶器は、「大名物おおめいぶつ」は、その多くが全くの雑器に過ぎない。かくも自然な、かくも奔放な彼らの雅致は、雑器なるが故だといい得よう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
誰があの「大名物おおめいぶつ」を造ったのであろうか、誰の手にあの雅致とか渋さとかの美が、托されていたのであろうか。不思議にもそこには何の某という者がないのです。誰もがそれを作ったからです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)