わたしばかりがあなたを恋している、あなたがわたしを恋するというのは口先の気休めに過ぎぬという大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめうらみも、そこから解せられなくてはなるまい。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
此は民謡風な読人不知よみびとしらずの歌だが、後に大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめが此歌を模倣して、「青山を横ぎる雲のいちじろく吾とまして人に知らゆな」(巻四・六八八)という歌を作った。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
この時代の作家としては山上憶良、山部赤人、大伴家持、大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめ笠女郎かさのいらつめのごときがあり、歌の内容はますます複雑に、技巧はますます精練せられた。たとえば
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
なお、大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめの歌に、「ひさかたの天の露霜置きにけりいへなる人も待ち恋ひぬらむ」(巻四・六五一)というのがあり、これも憶良の歌の影響があるのかも知れぬ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
また、やはり此巻(一四八四)に、「霍公鳥ほととぎすいたくな鳴きそひとりゐて宿らえぬに聞けば苦しも」という大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめの歌があるが、「吾が恋まさる」の簡浄かんじょうな結句には及ばない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)