墨色ぼくしょく)” の例文
広重は従来の日本画の如く輪廓りんかくの線を描くにはことごと墨色ぼくしょくを用ひ、彩色は唯画面の単調を補ふ便宜となしたるに過ぎず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうしてその上には怪しげな楊柳観音ようりゅうかんのんの軸が、すすけた錦襴きんらん表装ひょうそうの中に朦朧もうろう墨色ぼくしょくを弁じていた。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は日本橋橋上きょうじょうの人物倉庫船舶等の輪廓を描くに日本画の特色たる墨色ぼくしょくの線を廃し、全画面の色調を乱さざらんがため緑と藍との二色にしょくの線を以てしたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
試みに今土佐とさ狩野かの円山等まるやまとう各派の制作と浮世絵とを比較するに、浮世絵肉筆画は東洋固有の審美的趣味よりしてその筆力及び墨色ぼくしょくの気品に関しては決して最高の地位を占むるものにはあらざるべし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
試みに今土佐とさ狩野円山まるやま等各派の制作と浮世絵とを比較するに、浮世絵肉筆画は東洋固有の審美的趣味よりしてその筆力及び墨色ぼくしょくの気品に関しては決して最高の地位を占むるものにはあらざるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)