刺繍ぬいと)” の例文
時鳥ほととぎす啼くや五尺の菖蒲あやめ草を一杯に刺繍ぬいとった振り袖に夜目にもしるき錦の帯をふっくりと結んだその姿は、気高く美しくろうたけて見える。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その次来た時には御納戸おなんどの結び目に、白いちょう刺繍ぬいとった襟飾えりかざりを、新聞紙にくるんだまま、もし御掛けなさるなら上げましょうと云って置いて行った。それを安野やすのが私に下さいと云って取って帰った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時俺は変な物を見た。若い女と若い男だ。人の背中に背負われていた。衣裳の胸に刺繍ぬいとりがあった。それを見て俺は仰天ぎょうてんした。青糸で渦巻きが刺繍ぬいとられていたんだ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)