凌霄花のうぜんかずら)” の例文
凌霄花のうぜんかずらはますます赤く咲きみだれ、夾竹桃きょうちくとうつぼみは後から後からとほころびては散って行く。百日紅さるすべりは依然として盛りの最中である。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
美女桜の花は濃紅、松葉菊の花は淡紅、ロベリヤはすみれよりも小さな花で紫、他の一種は苧環草おだまきそうに似た花と葉で、花の色は凌霄花のうぜんかずらの如き樺色である。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と流れ風が、始めてなま暖かく、柱の間を吹いて、うす甘い凌霄花のうぜんかずらのにおいが、どこからかそっと一同の鼻を襲った。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その光は巻き上げた支那簾しなすだれと共に、柱や簾に絡んでいる凌霄花のうぜんかずらにやや強く当る。欄干の下に花壇もあるらしい。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うすいもやの上から、静かに荒廃した町を見おろしている——と、その中で、かすかに凌霄花のうぜんかずらのにおいがした。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ、母になるという喜びだけが、そうして、また、自分も母になれるという喜びだけが、この凌霄花のうぜんかずらのにおいのように、さっきから彼女の心をいっぱいにしているからである。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)