一己いっこ)” の例文
殊にチベット人は一己いっこの利害を見ることに機敏でありますから、そういうふうにたびたび金を施してくれるのを大いに喜んで
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今般自分が上京する主意は将軍の進発もあらせらるる時勢を傍観するに忍びないからであって、全く一己いっこの微忠を尽くしたい存慮にほかならない、この上
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三友人は依然として彼の攻撃に全力を尽せどもヨブは従来の如く激せず、受けた攻撃の主意を自分一己いっこの事とせず、これを人類全体の大問題として考察する。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
わたくし一己いっこ好悪こうおによっていうと、興福寺の竜王よりはこの天王の方がすぐれている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
また人の見識、品行はただ聞見のひろきのみにて高尚なるべきにあらず。万巻の書を読み、天下の人に交わり、なお一己いっこの定見なき者あり。古習を墨守する漢儒者のごときこれなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そうして拙者一己いっこの安心は、霊魂不滅を信ずるはもちろん、山川風月を観ずるごとに、世界の幽玄高妙なるを感じ、自ら理想の楽を味わい、仏教のいわゆる此土寂光しどじゃっこうの妙趣は、けだし
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
むしろ一己いっこの利害を見ることは知って居るけれども、国家の利害を見ることを知らない。大体国家の存在などということはチベット人の脳裡のうりにはほとんど無いというてもよろしい位です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)