飛々とびとび)” の例文
じん、時々飛々とびとびに数えるほどで、自動車の音は高く立ちながら、鳴くはもとより、ともすると、驚いて飛ぶ鳥の羽音が聞こえた。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戦略的な眼で、平野を海洋と見るならば、飛々とびとびにある丘や山は、これを大洋の島々と見て、その利用価値が考えられてくる。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川筋さえけて通れば、用水に落込む事はなかったのだが、そうこうする内、ただその飛々とびとびの黒い影も見えなくなって、後は水田みずた暗夜やみになった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
部落も飛々とびとびで、確かな国境というものがない。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(どッこいしょ、)と暢気のんきなかけ声で、その流の石の上を飛々とびとびに伝って来たのは、茣蓙ござ尻当しりあてをした、何にもつけない天秤棒てんびんぼうを片手で担いだ百姓ひゃくしょうじゃ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たけなす茅萱ちがやなかばから、およ一抱ひとかかえずつ、さっくと切れて、なびき伏して、隠れた土が歩一歩ほいっぽ飛々とびとびあらわれて、五尺三尺一尺ずつ、前途ゆくてかれを導くのである。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そこ退け、踏んでくれう。」といらてる音調、草が飛々とびとび大跨おおまたきつしたと見ると、しまの下着は横ざまに寝た。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、一里あまり奥の院まで、曠野の杜を飛々とびとびに心覚えの家数は六七軒と数えてとおに足りない、この心細い渺漠びょうばくたる霧の中を何処へ吸われて行くのであろう。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
九十九折つづらおりのような形、流は五尺、三尺、一間ばかりずつ上流の方がだんだん遠く、飛々とびとびに岩をかがったように隠見いんけんして、いずれも月光を浴びた、銀のよろいの姿
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
公園の入口に、樹林を背戸に、蓮池はすいけを庭に、柳、藤、桜、山吹など、飛々とびとびに名に呼ばれた茶店がある。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
公園の入口に、樹林を背戸せどに、蓮池はすいけを庭に、柳、ふじ、桜、山吹やまぶきなど、飛々とびとびに名を呼ばれた茶店ちゃみせがある。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いや、先刻などは、落葉が重なり重なり、水一杯に渦巻いて、飛々とびとびの巌が隠れまして、何処どこを渡ろうかと見ますうちに、水も、もみじで、一面に真紅まっかになりました。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日が暮れかかると、あっちに一ならび、こっちに一ならび、横縦になって、梅の樹が飛々とびとびに暗くなる。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わずかの間も九十九折つづらおりの坂道、けわしい上に、なまじっか石を入れたあとのあるだけに、爪立つまだって飛々とびとびりなければなりませんが、この坂の両方に、五百体千体と申す数ではない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
底へ下りると、激流の巌から巌へ、中洲の大巌で一度中絶えがして、板ばかりの橋が飛々とびとびに、一煽ひとあおり飜って落つる白波のすぐ下流は、たちまち、白昼も暗闇やみを包んだ釜ヶ淵なのである。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左手ゆんでみさき蘆原あしはらまで一望びょうたる広場ひろっぱ、船大工の小屋が飛々とびとび、離々たる原上の秋の草。風が海手からまともに吹きあてるので、満潮の河心へ乗ってるような船はここにおいて大分揺れる。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さすが各目てんでに名を恥じて、落ちたる市女笠、折れたる台傘、飛々とびとびに、せなひそめ、おもておおい、膝を折敷きなどしながらも、嵐のごとく、中の島めた群集ぐんじゅ叫喚きょうかんすさまじき中に、くれないの袴一人々々
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これでは目が覚めて見ると、血の足跡が、飛々とびとびに残っていようも知れぬ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
積んだたきぎの小口さえ、雪まじりに見える角の炭屋の路地を入ると、かすかにそれかと思う足あとが、心ばかり飛々とびとびくぼんでいるので、まず顔を見合せながら進んで門口かどぐちくと、内はしんとしていた。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうどいまの曲角まがりかどの二階家あたりに、屋根の七八ななやっかさなったのが、この村の中心で、それからかいの方へ飛々とびとびにまばらになり、海手うみてと二、三ちょうあいだ人家じんか途絶とだえて、かえって折曲おれまがったこの小路こみちの両側へ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
袖さえ軽い羽かと思う、蝶にかれたようになって、垣の破目をするりと抜けると、出た処の狭いみちは、飛々とびとびの草鞋のあと、まばらの馬のくつかたを、そのまま印して、乱れた亀甲形きっこうがたに白く乾いた。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
泉殿せんでんなぞらへた、飛々とびとびちんいずれかに、邯鄲かんたんの石の手水鉢ちょうずばち、名品、と教へられたが、水の音よりせみの声。で、勝手に通抜とおりぬけの出来る茶屋は、昼寝のなかばらしい。の座敷も寂寞ひっそりして人気勢ひとけはいもなかつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
泉殿せんでんなぞらえた、飛々とびとびちんのいずれかに、邯鄲かんたんの石の手水鉢ちょうずばち、名品、と教えられたが、水の音より蝉の声。で、勝手に通抜けの出来る茶屋は、昼寝の半ばらしい。どの座敷も寂寞ひっそりして人気勢ひとけはいもなかった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また飛々とびとびに七、八軒続いて、それが一部落になっている。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)