阿弥陀あみだ)” の例文
旧字:阿彌陀
私は毎日のように夕方になるとこの町に最後の別れをするために、清水きよみず辺りから阿弥陀あみだみねへかけての東山ひがしやまの高見へ上っていました。
蝶が飛ぶ 葉っぱが飛ぶ (新字新仮名) / 河井寛次郎(著)
写真を掲げた一図は高野山に蔵せられる「聖衆来迎図しょうじゅらいごうず」のほんの一部分、中央阿弥陀あみだ如来の向って右に跪坐きざする観世音菩薩かんぜおんぼさつの像である。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
舎監の赤い髭を憶出した。食堂の麦飯のにほひを憶出した。よく阿弥陀あみだくじに当つて、買ひに行つた門前の菓子屋の婆さんの顔を憶出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして御本尊ごほんぞん阿弥陀あみださまのお口のまわりに、重箱じゅうばこのふちにたまったあんこを、ゆびでかきよせては、こてこてとぬりつけました。
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
車掌が革包かばんを小脇に押えながら、帽子を阿弥陀あみだに汗をふきふきけ戻って来て、「お気の毒様ですがお乗りかえの方はお降りを願います。」
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わざと帽子を阿弥陀あみだにかぶったり、白いマフラーを伊達者だてしゃらしくまとえば纏うほど、泥臭く野暮に見えた。遠くから見ている私の方をむいて
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
と志免警視は又も制服をりかえらして笑い出した。剣の柄をがちゃがちゃと乗馬ズボンの背後うしろに廻しながら、帽子をぐいと阿弥陀あみだにした。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こう言いながら座敷へおはいりになった院は御自身でも微音に阿弥陀あみだ大誦だいじゅをお唱えになるのがほのぼのと尊く外へれた。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
げかかった山高帽を阿弥陀あみだかぶって毛繻子張けじゅすばりの蝙蝠傘こうもりをさした、一人坊ひとりぼっちの腰弁当の細長い顔から後光ごこうがさした。高柳君ははっと思う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山高帽を少し阿弥陀あみだかぶった中年の肥大ふとった男などが大きな葉巻をくわえて車掌台にもたれている姿は、その頃のベルリン風俗画の一景であった。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
野田副寮長は帽子を阿弥陀あみだにずらし、両方の手を胴にあてて、愉快さうに観察した。理学士は忙しさうにピントを合せた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
あんぺら帽子を阿弥陀あみだかぶり、しま襯衣しゃつ大膚脱おおはだぬぎ、赤い団扇うちわを帯にさして、手甲てっこう甲掛こうがけ厳重に、荷をかついで続くは亭主。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文字はこれを読みうる人があって始めて有用になるのだが、それよりもさらに必要だったのは阿弥陀あみださまの御影みえい、ないしは六字の御名号みょうごうである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「よして」とおくみは眉をひそめた、「よしてちょうだいかよさん、阿弥陀あみださまと間違えたなんて縁起が悪いじゃないの」
「その呪いはいったい誰が作られたか、阿弥陀あみださまはどこにおられる仏さまか。いまでも阿弥陀さまは極楽にござるかの」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
山上の宮方へは、このころ北国から四千の新手がせさんじ、また、阿波四国の宮方も「お味方に」と京地へ着いて、阿弥陀あみだみねっていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同行三 阿弥陀あみだ様に、何とぞ今度の後生ごしょうを助けたまわれとひとすじにお願い申せばいかなる悪人も必ず助けてくださると、こう承っていますので。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
練吉は、癖だと見えて、折角きちんとかぶつて出たカンカン帽をいきなり指で突き上げて阿弥陀あみだにすると、いかにもだらりとした様子で歩き出した。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
ほとんど信じ難い奇怪事である。しかしたら、耄碌もうろくした老人の幻覚であったかも知れぬ。だが本人は確かに阿弥陀あみだ様の様なとうとい金色の人を見たといっている。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
老侍女「でも、おかしゅうございますねえ、そんなに此の世の美しさに牽き付けられなさるあなた様が、始終、阿弥陀あみださまを拝んでいらっしゃいますとは」
或る秋の紫式部 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
古い羊羹ようかん色の縁の、ペロリと垂れた中折を阿弥陀あみだにかぶった下に、大きなロイド眼鏡——それも片方のつるが無くて、ひもがその代用をしている——を光らせ
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
阿弥陀あみだいただけるもの、或は椅子に掛かり、或はとこすわり、或は立つて徘徊はいくわいす、印刷出来しゆつたいを待つ徒然つれづれに、機械の音と相競うての高談放笑なかなかににぎはし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
これまではいわゆる両部混同で何の神社でも御神体は幣帛へいはくを前に、その後ろには必ず仏像を安置し、天照皇大神は本地ほんじ大日如来だいにちにょらい八幡大明神はちまんだいみょうじんは本地阿弥陀あみだ如来
露柴も、——露柴は土地っ子だから、何も珍らしくはないらしかった。が、鳥打帽とりうちぼう阿弥陀あみだにしたまま、如丹と献酬けんしゅうを重ねては、不相変あいかわらず快活にしゃべっていた。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
顔は阿弥陀あみださまを始め、気高い仏でありながら、剣や弓矢などの武器を手にして、ふりまわしている殺伐さつばつなものと、だいたいこの二つに分けられるのであった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と木部はうつろに笑って、つばの広い帽子を書生っぽらしく阿弥陀あみだにかぶった。と思うとまた急いで取って
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
奥には阿弥陀あみだ様か何かがすすけた表装のままで蜘蛛くもの巣に包まれてござるほどのところで、別にお浜の思い出になるものがこの仏壇の中にあるはずもないのですが
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分は阿弥陀あみだ様におすがり申して救うて頂く外に助かる道はない。政夫や、お前は体を大事にしてくれ。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
電気をつけて、みんなで阿弥陀あみだを引いた。私は四銭。女達はアスパラガスのように、ドロドロと白粉おしろいをつけかけたまま皆だらしなく寝そべって蜜豆みつまめを食べている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
当分出入りならぬ由云いに鋭次がところへ行かんとせし矢先であれど、視ればわが子を除いては阿弥陀あみだ様よりほかに親しい者もなかるべきか弱き婆のあわれにて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
薬師三尊のごとき光りと曲線の仏体を他に求めるならば、前述の橘夫人念持仏であるが、しかし私はむしろ法隆寺金堂の西大壁に描かれた阿弥陀あみだ三尊を挙げたい。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼等は古びた中折帽を阿弥陀あみだにかぶった、咽喉のどよごれた絹ハンカチを巻いた、金歯の光って眼のするどい、癇癪持かんしゃくもちらしい顔をした外川先生と、強情ごうじょうできかぬ気らしい
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一番中央に母子の者の最も悲しい追憶となっている、五、六年前にくなった弟の小さい位牌いはいが立っている。そして、その脇には小さい阿弥陀あみだ様が立っていられる。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
これも大急ぎで手廻りの荷物を纏めると、帽子を阿弥陀あみだにかぶって、靴をブラ下げて、カバンを抱えて
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
面長おもながの冴え冴えした目鼻立めはなだちに、きれいな髪の毛を前の方だけきちんと分けて、パナマ帽を心持ち阿弥陀あみだに冠り、白足袋を穿き雪駄をつッかけて、なか/\軽快な服装をして居る。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こんな苦しい思して何の娑婆しやばに生きとりたいことがある。阿弥陀あみだ様が、お、来たか/\と御手を広げて迎へて下さるのやぞ、何も心配は要らぬ。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏……
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏、南無なむ……阿弥陀あみだ……南無阿弥なむあみ…………ぶつ南無なむ……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ハンドルを両手に、パナマを阿弥陀あみだに頭の毛を振り振り、例の快活な笑いの持ち主だ。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
塵埃ほこりだらけの鉢巻もない帽子を阿弥陀あみだかぶって、手ぶらで何だか饒舌しゃべりながら来る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
阿弥陀あみだ如来とも言うし、単に如来とも言う。女のヤチのことだ。俺は波子の如来を拝みたいという気持でそう言っていた。若紫のヤチは如来なんてものじゃなくて、アカナベでいい。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
雨の日には泥濘でいねいの深い田畝道たんぼみちに古い長靴ながぐつを引きずっていくし、風の吹く朝には帽子を阿弥陀あみだにかぶって塵埃じんあいを避けるようにして通るし、沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
乾児こぶんにまたいっぷう変ったやつがいて、中でもおもだったのは毛抜けぬきおと阿弥陀あみだの六蔵、駿河するがための三人。一日に四十里しじゅうり歩くとか、毛抜で海老錠えびじょうをはずすとか不思議な芸を持ったやつばかり。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今日満願というその夜に、小い阿弥陀あみだ様が犬の枕上に立たれて、一念発起の功徳くどくに汝が願いかなえ得さすべし、信心おこたりなく勤めよ、如是畜生発菩提心、善哉善哉、と仰せられると見て夢はさめた
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
並びに釈迦しゃか阿弥陀あみだの像をそれぞれ造立ぞうりゅう寄進するという条件であった。
山の主任連はフロックに絹帽子シルクハット乃至ないし山高で、親方連も着つけない洋服のカラーを苦にし乍ら、堅い帽子を少し阿弥陀あみだに被ってヒョコスカ歩廻っては叱言こごとを連発して居る、大分恐入ってる風に見える。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
「あちらには、阿弥陀あみださまという御光ごこうが、うしろにひかっていらっしゃるから、お金持ちなのだろう。われわれは、原稿紙の舛目ますめへ、一字ずつ書いていくらなのだから、お米ッつぶ拾っているようなもので、駄目だめだ。」
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
なも 阿弥陀あみだほとけ。あなたふと 阿弥陀ほとけ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
阿弥陀あみだ様の来現ありて御告げあらせらるるには
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「それがくまという名の人じゃやら、けだもののくまじゃやらわかりませぬゆえ、毎朝おときのおりにいっしょうけんめい如来にょらいさまにもお尋ねするのだけれど、どうしたことやら、阿弥陀あみださまはなんともおっしゃってくださりませぬ」
阿弥陀あみださまは
青い眼の人形 (新字新仮名) / 野口雨情(著)