閉籠とじこも)” の例文
独身で暮すやもおに似ず、ごく内気でございますから、外出そとでも致さず閉籠とじこもり、鬱々うつ/\書見しょけんのみして居りますところへ、或日あるひ志丈が尋ねて参り
区々たる藩閥の巣窟に閉籠とじこもり、自家の功名栄達にのみ汲々きゅうきゅうたる桂内閣ごときでは、到底、永遠に日本の活力を増進せしめる事は出来ない。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
正午ひる時分にいったん帰って、居間へ閉籠とじこもったが、しばらくすると、またどこへか出て行きました。そうして夕方になって戻って来ました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
種彦は日ごとおしえを乞いにと尋ねて来る門弟たちをも次第々々に遠ざけて、唯一人二階の一間ひとま閉籠とじこもったまま、昼となく夜となく
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
岸本はまたその頃の記憶を階下から自分の書斎へ持って来ることも出来た。ひとりで二階に閉籠とじこもって机に向っている彼自身がある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
世間ではよい月だと云つて、あるいは二階から仰ぎ、あるひは店先から望み、あるひは往来へ出て眺めてゐるなかで、かれ一人は奥に閉籠とじこもつてゐた。
私はその中に閉籠とじこもり、世の中との交渉を絶つ事によって、ようやく嘲罵ちょうばの声を耳にしず、石をぶつけられ、横面よこつらを張飛ばされる事を免かれました。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
多人数一室へ閉籠とじこもって、徹夜で、密々ひそひそと話をするのが、しんとした人通ひとどおりの無い、樹林きばやしの中じゃ、そのはずでしょう。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
研究室に閉籠とじこもっていて世間とはまったく往来ゆききをしなかったばかりか、博士号をどうしても固辞して受けなかった、ということは聞いていたが、それにしても
地図にない島 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
来た当座、針を動かしている彼は時々巡査の影を見ておそれおののいていた。そしてどんな事があっても、一切おもてへ出ることなしに、家にばかり閉籠とじこもっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「まあ、気鬱症きうつしょうとか申すのだそうでございましょうかな。滅多にございませんが、一旦そうおなりになると一人であすこへ閉籠とじこもって、人と口を利くのを嫌がられます」
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「わしは、これからひとりで閉籠とじこもって、十号ガスをうんとつくらにゃならんのじゃ。火星兵団をやっつけるには、十号ガスをよほど多量にもっていなければならんのでのう」
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
教師が学校内にばかり閉籠とじこもっているのとちがい、若い婦人は学校の門を一足出れば直ぐに「娘」としての自由な天地に遊んで、自身で新代の令嬢教育を不完全ながら試みております。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
母や兄嫁は立ったり坐ったり、何となしに家事に忙しかったが、勝代はざっと二階の掃除そうじをして、時間はずれの朝餐を一人で食べると、下女に吩咐いいつけて、二階の炬燵こたつに火を入れさせて閉籠とじこもった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
そうして朝暮出入している愛松、極堂らの諸君とは軌道をことにして、多くの時間は二階に閉籠とじこもって学校の先生としての忠実なる準備と英文学者としての真面目な修養とに力を注いでいたのである。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
相川さん、今晩は用心しないといけませんぜ。先生はひどく不機嫌です。いつも余り機嫌のいい人じゃありませんがね。今晩は殊にひどいですよ。さい前帰ってから、書斎に閉籠とじこもったきり、お茶を
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
君、部屋のなかに閉籠とじこもっているので、散歩がてらそこへ行ってみ給え。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
大したきずではないが容体ようだいが思わしくないから、お浜が引続き郁太郎を介抱かいほうしている間に、竜之助は一室に閉籠とじこもったまませき一つしないでいるから
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そんなこといってるひまがなかったのが、雨で閉籠とじこもって、淋しいので思い出した、ついでだから聞いたので。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二階からといって、眼薬をさすわけでもない。私が現在閉籠とじこもっているのは、二階の八畳と四畳の二間で、飯でも食う時のほかは滅多めったに下座敷などへ降りたことはない。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
船房に閉籠とじこもっている乗客は少なかった。大概の人は甲板かんぱんの上に出て、春らしい光と熱とにふけり楽んだ。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
始終蒼い顔ばかりしている病身な主婦は、暖かそうな日には、明い裏二階の部屋へ来て、まれには針仕事などを取出していることもあったが、大抵は薄暗い自分の部屋に閉籠とじこもっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
復讐かたきうちの外は人を殺せば大抵死罪と決って居りますから、何分長二を助命いたす工夫がございませんので、筒井侯も思案に屈し、お居間に閉籠とじこもって居られますを、奥方が御心配なされて
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そう思うと、居ても立っても居られなかった。このごろでは自動車の運転も控え目にして、温和おとなしく、閉籠とじこもっている自室を出ると孫を呼んで、自分が生きているかどうかを、たずねてみた。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日の目を見ないやうな奥のにばかり閉籠とじこもつてゐるために、運動不足、それに伴ふ食慾不振がいよ/\彼女かれを疲らせて、さながら生きてゐる幽霊のやうになり果てた。
その老人としよりは、年紀とし十八九の時分から一時ひとしきり、この世の中から行方が知れなくなって、今までの間、甲州の山続き白雲しらくもという峰に閉籠とじこもって、人足ひとあしの絶えた処で、行い澄して
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一中節の門付はそんなことにはちっとも頓着とんじゃくはしませんで、時間をちがえず毎日廻ってまいり、お若さんの閉籠とじこもっている草庵そうあんの前に立って三味線弾くこともありますが、或日の事でございました
と藤色の緒の表附おもてつき駒下駄こまげたを、べにした爪先つまさき引掛ひっかけながら、私が退いた後へ手を掛けて、格子から外をのぞいた、かどを出てからでさそうなものを、やっぱり雨に閉籠とじこもった処を
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥様も人に顔を見られるのをいとって、年中アノ座敷に閉籠とじこもったままで滅多に外へ出た事も無かったでしたが、ツマリ自分の良心に責められたのでしょう、気病きやみのようにブラブラと寝つ起きつ
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
朝晩は、単衣ひとえに羽織をて、ちとまだぞくぞくして、悪い陽気だとばかり、言合って閉籠とじこもっていた処……その日は朝から雨があがって、昼頃には雲切くもぎれがして、どうやら晴れそうな空模様。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父さんはね、それにね、頃日このごろは、家族主義の事に就いて、ちっと纏まった著述をするんだって、母屋に閉籠とじこもって、時々は、何よ、一日蔵の中に入りきりの事があってよ。蔵には書物が一杯ですから。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)