邸宅やしき)” の例文
その富豪かねもちも皮肉哲学者に、自家の邸宅やしきを自慢したいばかりに、飾り立てた客室きやくまから、数寄すきを凝らした剪栽うゑこみの隅々まで案内してみせた。
警官の方に来て戴いて邸宅やしきを守ってなどいただいては、事があんまり大仰になり、世間一般に知れましたら良人が意気地なしに見えますし……
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは細いだら/\の坂路の両側とも、石やコンクリートの塀を廻したお邸宅やしきばかし並んでいるような閑静な通りであった。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
まあ、君、左様そうじゃないか。もし君が壮大おおき邸宅やしきでも構えるという時代に、僕が困って行くようなことがあったら、其時は君、宜敷頼みますぜ。
朝飯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しか宗助そうすけ邸宅やしきつてまうけたとはれては心持こゝろもちわるいから、これ小六ころく名義めいぎ保管ほくわんしていて、小六ころく財産ざいさんにしてる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「どなたも! みんな来てください! 悪いやつが大勢、邸宅やしきの庭にはいりこんでいますから。——じいやッ、三吉ッ、お客様たちも来て下さい」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
富豪ものもちいへでは蟲干むしぼしで、おほきな邸宅やしきはどの部屋へやも一ぱい、それがにはまであふれだしてみどり木木きゞあひだには色樣々いろさま/″\高價かうかなきもの がにほひかがやいてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
七月七日の夕べ、片岡中将の邸宅やしきには、人多くつどいて、皆低声こごえにもの言えり。令嬢浪子のやまいあらたまれるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
私はある友人の紹介で、貴族エル何某なにがしの別荘へ避暑かたがた遊びに行った事がある、その別荘は倫敦ロンドンの街から九マイルばかりはなれた所にあるが、中々手広い立派な邸宅やしき
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今まで深く茂った大きな常磐木ときわぎの森の間に、王宮と向い合って立っていた紅木大臣の邸宅やしき住居すまいも床も立ち樹もすっかり黒焦くろこげになってしまって、数限りなく立ち並んだ焼木杭やけぼっくいの間から
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
古びた庭園や木立をそのままに広い邸宅やしきを新築した。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
直ぐ邸宅やしきの立派なのを欲しがるのと打つて変つて、今も往時むかし宿屋ホテル室借まがりで、その全財産を鞄一つにをさめてけろりとしてゐる。
それは細いだら/\の坂路の兩側とも、石やコンクリートの塀を𢌞したお邸宅やしきばかし並んでゐるやうな閑靜な通りであつた。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
少し、きかない家来などがいると、忠義だてしてあらそうので、邸宅やしきはたちまち火をけられて焼かれてしまう。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叔母をばところによると、宗助そうすけ邸宅やしき賣拂うりはらつたとき叔父をぢ這入はいつたかねは、たしかにはおぼえてゐないが、なんでも、宗助そうすけのために、急場きふばあはせた借財しやくざいかへしたうへ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「いやはや余り結構づくめなお邸宅やしきなんで、つばきが吐きたくなつても、何処にも恰好な場所が見つからないもんですから、ついお顔を汚しましたやうな訳で……」
岡本の邸宅やしきへ着いた時、お延はまた偶然叔父の姿を玄関前に見出みいだした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助の邸宅やしきを売払った時、叔父の手に這入はいった金は、たしかには覚えていないが、何でも、宗助のために、急場の間に合せた借財を返した上、なお四千五百円とか四千三百円とか余ったそうである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある人の邸宅やしきを借り入れたのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)