近江おうみ)” の例文
わたしはそれより以前に伊賀いが近江おうみのさみしい国境くにざかいを歩いて越したこともありますが、鹿野山の峠道はもっとさみしいところでした。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで手まえのあつかいますのは、近江おうみ琵琶湖びわこ竹生島ちくぶしまに、千年あまりつたわりました、希代きたいふしぎな火焔独楽かえんごま——はい、火焔独楽!
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
和歌所の領として、播磨はりま細川庄と近江おうみ小野庄とがあったが、恐らくは承久乱後定家が領有してその地頭職じとうしきとなり、為家が相続した。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
二三日というのが七日も経って、その日は呉服橋の近江おうみ屋という、商家の隠居を診にいったので、帰りに佐久間町へまわったのであった。
私も強い断定は差控さしひかえるが、これは近江おうみから、または近江へ、ちかごろ輸入したものでないということはまあ言えそうである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
依って曰く、敵を殺すの多きを以て勝つにあらず、威を耀かし気を奪い勢をたわますの理をさとるべしと。中村は近江おうみ国の人なり。
蚊相撲かずもう』という狂言に近江おうみの国から出て来た男をかかえると、それが蚊のせいであったというのがあるが、大方近江に蚊は名物なのであろう。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
祖父が病を押して江戸からお国へ帰る途中、近江おうみ土山つちやまで客死せられたのは、文久ぶんきゅう元年のことでした。長兄が生れる前年です。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
この時は木曽義仲が勢五万余騎を引き連れて守護したが、近江おうみ源氏山本冠者義高やまもとのかんじゃよしたかは、白旗を高く風に靡かせて先陣となった。
尾張おわり東春日井ひがしかすがい郡にもあれば、近江おうみ神崎かんざき郡にもある。伊勢の三重郡には大治田と書いて「オバタ」と読む地名があって、一に小幡にも作る。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
建振熊命たけふるくまのみことは、とうとうそれを同じ近江おうみ篠波ささなみというところで追いつめて、敵の兵たいという兵たいを一人ものこさずり殺してしまいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
こうなると為朝ためとも一人ひとりいかにりきんでもどうもなりません。れいの二十八もちりぢりになってしまったので、ただ一人ひとり近江おうみほうちて行きました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
琵琶湖で名高い近江おうみは滋賀県であります。大津絵で名高い大津がその都であります。みずうみのぞんだ古い町は、昔の姿を今もそう変えておりません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この話は、たちまち幾百里の山河さんがを隔てた、京畿けいきの地まで喧伝けんでんされた。それから山城やましろの貉がける。近江おうみの貉が化ける。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
近江おうみの空を深く色どるこの森の、動かねば、そのかみの幹と、その上の枝が、幾重いくえ幾里につらなりて、むかしながらのみどりを年ごとに黒く畳むと見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの内大臣の令嬢で尚侍になりたがっていた近江おうみの君は、そうした低能な人の常で、恋愛に強い好奇心を持つようになって、周囲を不安がらせた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この点では其角に負けている。その上去来の外に京の俳人というのも、凡兆ぼんちょうを除けば外に一人もないです。その代り近江おうみには沢山の俳人が出ました。
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「高島の勝野」は、近江おうみ高島郡三尾のうち、今の大溝町である。黒人の覉旅の歌はこれを見ても場処の移動につれ、その時々に詠んだことが分かる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
むかし、近江おうみの国、琵琶湖びわこの西のほとりの堅田かただに、ものもちの家がありまして、そこに、ふたりの兄弟がいました。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
やつとの事に寐かせ候ひしに、近江おうみのはづれまで不覚に眠り候て、案ぜしよりは二人の児は楽に候ひしが、私はすえと三人をまもりて少しもまどろまれず
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
なんにしても木津、宇治、加茂、桂の諸川がこのあたりで一つになり、山城、近江おうみ河内かわち、伊賀、丹波等、五カ国の水がここに集まっているのである。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
信長が光秀にしいされた時は、光秀から近江おうみ半国の利をくらわせて誘ったけれども節を守って屈せず、明智方を引受けて城にって戦わんとするに至った。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
日比谷公園前の近江おうみを初めとして、新しい東京八景が出来ているが、それは皆、往来に山や谷や湖や川が出来たのに対して名づけられたものである。
吉野、高橋、清川、槙葉まきは。寝物語や、美濃みの近江おうみ。ここにあわれをとどめたのは屋号にされた遊女おいらん達。……ちょっと柳が一本ひともとあれば滅びた白昼のくるわひとしい。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小面こおもてや若女やぞうの面などはわけても大好きでございます。でも鉄輪かなわの生成や、葵の上の泥眼でいがんや、黒塚に使う近江おうみ女などは、凄味すごみがありまして恐ろしゅうござります
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山門の衆徒は近江おうみへ下って長者の家を焼き人を殺し、あるいは京都に下って公家の階級をおびやかした。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
婿になった人も子まであるに、近江おうみへ帰されてしまった。(そのころ明治十三年ごろか?)市中は大コレラが流行していて、いやが上にも没落の人の心をふるえさせた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
もっともわたくしは二三日前より御用で近江おうみへ参っておりまして、その夜のことは何も存じません。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
湖山は国事に奔走した功によって維新の際太政官権弁事に任ぜられ記録編輯の事を掌ること僅に三個月ばかり、母の病めるを聞き官を辞して故郷近江おうみ帰臥きがしたのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
旅の俳諧師はいかいしでございましてね、このたび、信州の柏原かしわばら一茶宗匠いっさそうしょうの発祥地を尋ねましてからに、これから飛騨ひだの国へ出で、美濃みのから近江おうみと、こういう順で参らばやと存じて
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十番が山城宇治の三室みむろ、十一番がかみ醍醐寺だいごでら、十二番が近江おうみ岩間寺いわまでら、十三番が石山寺、十四番が大津の三井寺と段々打巡うちめぐりまして、三十三番美濃の谷汲たにくみまで打納めまする。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
琵琶湖びわこの東北の縁にほぼ平行して、南北に連なり、近江おうみ美濃みのとの国境となっている分水嶺ぶんすいれいが、伊吹山の南で、突然中断されて、そこに両側の平野の間の関門を形成している。
伊吹山の句について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
われらが西京より近江おうみに出でて有名なる三井寺に詣ずる途中、今しも琵琶湖びわこぎ出る舟に一個の気高き行脚僧あんぎゃそうを見き、われらが彼を認めし時は、舟すでに岸を離れてありき
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
あることから近江おうみ佐々木氏綱ささきうじつなの許へ密使としてえらばれ、近江へ赴いて佐々木の館に逗留しているうちに、故郷では前の富田城主尼子経久あまこつねひさ山中鹿之介やまなかしかのすけ一党を味方にひきいれて
日本第一の近江おうみのびわは、そのぐるりがほとんど山ですが、霞ガ浦は関東平野かんとうへいやのまんなかにあるので、山らしい山は、七、八はなれた北の方に筑波山つくばさんむらさきの色を見せているだけで
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
という哀婉あいえんな一章などを拾い読みしたりしつつ、ひる過ぎ、やっと近江おうみうみにきた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ある時、越前えちぜん佐伯氏長さえきのうじながが、その国の選手として相撲の節会に召されることになった。途中近江おうみの国高島郡石橋を通っていると、川の水をんだおけを頭にいただいて帰ってくる女がいた。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一六〇〇年九月十五日に、徳川家康が、関ヶ原の戦いに勝ち、同年九月二十日、近江おうみ草津くさつ駅に、大兵をひきいて駐屯したときには、朝廷は、特使を草津につかわして、家康をねぎらった。
この伯母の主人は近江おうみの国に寺を持っている住職で、一人息子もまた別に寺を持っていた。伯母は家の中の掃除そうじをするとき、お茶や生花の師匠のくせに一糸もまとわぬ裸体でよく掃除をした。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その臣従をよみし、鳥の功を賞して、この詔とともに大仁だいにんの位を賜わり、また近江おうみ国坂田郡の水田二十町を下された。鳥はその田を私せず、天皇のために更に金剛寺を建立したと伝えられている。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
其の男は近江おうみから蚊帳を為入しいれて、それを上州じょうしゅうから野州やしゅう方面に売っていたが、某時あるとき沼田へ往ったところで、領主の土岐家ときけへ出入してる者があって、其の者から土岐家から出たと云う蚊帳を買って帰り
沼田の蚊帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
汽車が濃尾のうび平野を横断して、伊吹山いぶきやまふもと迂廻うかいしながら、近江おうみ平野に這入っても、探偵も老翁も姿を見せない。前の男は平気でグウグウ寝ている。私はズキンズキン痛む頭を抱えてウトウトし出した。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
義俊母子を近江おうみ三河一万石に蟄居ちっきょさせてしまったのでした。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
美濃みのの柳と、近江おうみの柳。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近江おうみ国琵琶湖東南岸
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
伊勢国(山田、松阪、津、一身田、四日市、桑名) 尾張国(名古屋、熱田、津島、大野、半田) 三河国(豊橋、岡崎、北大浜、西尾、蒲郡、豊川) 遠江とおとうみ国(掛川、浜松、平田、中泉) 駿河するが国(静岡、小川、清水、藤枝) 相模さがみ国(大磯) 武蔵国(忍) 上総かずさ国(千葉、茂原) 近江おうみ国(大津、豊蒲、五ヶ荘、愛知川、八幡、彦根、長浜) 美濃国(岐阜) 上野こうずけ国(安中、松井田、里見、高崎、八幡) 岩代いわしろ国(福島) 陸前国(築館、一迫) 陸中国(盛岡、花巻) 陸奥むつ国(弘前、黒石、板屋野木、鰺ヶ沢、木造、五所川原、青森、野辺地) 羽前うぜん国(米沢、山形、寒河江、天童、楯岡、新庄、鶴岡) 羽後うご国(酒田、松嶺、湯沢、十文字、横手、沼館、六郷、大曲、秋田、土崎、五十目、能代、鷹巣、大館、扇田) 越後国(新井、高田、直江津、岡田、安塚、坂井、代石、梶、新潟、沼垂、葛塚、新発田、亀田、新津、田上、加茂、白根、三条、見附、浦村、片貝、千手、六日町、塩沢、小出、小千谷、長岡、大面、寺泊、地蔵堂、新町、加納、野田、柏崎) 丹波国(亀岡、福知山) 丹後国(舞鶴、宮津、峰山) 但馬たじま国(出石、豊岡) 因幡いなば国(鳥取) 伯耆国(長瀬、倉吉、米子) 出雲国(松江、平田、今市、杵築) 石見いわみ国(波根、太田、大森、大国、宅野、大河内、温泉津、郷田、浜田、益田、津和野) 播磨はりま国(龍野) 備前びぜん国(閑谷) 備後びんご国(尾道) 安芸国(広島、呉) 周防すおう国(山口、西岐波、宮市、徳山、花岡、下松、室積、岩国) 長門ながと国(馬関、豊浦、田辺、吉田、王喜、生田、舟木、厚東、萩、秋吉、太田、正明市、黄波戸、人丸峠、川尻、川棚) 紀伊国(高野山、和歌山) 淡路国(市村、須本、志筑) 阿波国(徳島、川島、脇町、池田、撫養) 讃岐さぬき国(丸亀、高松、長尾) 伊予国(松山、宇和島、今治) 土佐国(高知、国分寺、安芸、田野、山田、須崎) 筑前国(福岡、若松) 筑後国(久留米、吉井) 豊前ぶぜん国(小倉、中津、椎田) 豊後ぶんご国(日田) 肥前ひぜん国(長崎、佐賀) 肥後ひご国(熊本) 渡島おしま国(函館、森) 後志しりべし国(江差、寿都、歌棄、磯谷、岩内、余市、古平、美国、小樽、手宮) 石狩国(札幌、岩見沢) 天塩てしお国(増毛) 胆振いぶり国(室蘭)
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「遠くは近江おうみの佐々木が一族と聞いておりますなれど、室町殿滅亡後、母方の里へひそみました由で、吉川家のろくんでおりませぬ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たけくらべの里とは近江おうみ美濃みの国境くにざかいにありまして、両国の山々がたけくらべするように見えるところから、その名があります。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
千載集せんざいしゅう』の神祇部じんぎぶに、久寿きゅうじゅ二年の大嘗会だいじょうえの風俗歌に、悠紀方ゆきがたとして詠進した歌は、近江おうみ木綿園ゆふぞのを地名として詠じている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
句意はきわめて明白で五月雨の降るころ近江おうみに行ってみると、あの広大な琵琶びわ湖の水が降り続く雨のために増しておった、というのであります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)