ため)” の例文
「へエ——さうすると、何時か見たいに、食はず飮まずで、人間は何里歩けるか、お前にためさせるんだ、てな事になりやしませんか」
親方は、一足はなれて、ほんとうにわたしの言ったとおりであるか、ためしてみようとした。かれは両手をさしべてへいにさわった。
「どう考えても黒めが無暗にあの客人に吠えつくのがおかしい。どうも徒事ただごとでねえように思われる。ためしに一つぶっ放してみようか。」
木曽の旅人 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いかにも眉唾な話だが下女払底の折から殊に人間に見られぬ神女が桂庵なしに奉公に押し掛け来るとはありがたいから一つためして見な。
ホーテンスは水戸の説に興味を覚えた、しかし真逆まさかそのことが間もなく本当に水中に於てためされようとは神ならぬ身の知る由もなかった。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
そればかりでなく、退屈なために、ふざけるために、またどこまで自分の力が及ぶかをためすために、その危険な遊戯をやるようになった。
女というものが日本とは違って考えられているらしい米国で、女としての自分がどんな位置にすわる事ができるかためしてみよう。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
窓の明りではない、それこそ弥陀本体の御光じゃ、尊い弥陀の示顕にためされたのじゃ、その折に出た念仏こそ、まことの念仏、生涯忘れまいぞ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんぢおとにもきつらん、白山はくさん狩倉かりくらに、大熊おほくま撲殺うちころした黒坂備中くろさかびつちうはういま自分じぶんちからためさん、いざふれなんぢ力競ちからくらべをしてやうか。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
猫は別におこる様子もなかった。喧嘩けんかをするところを見たためしもない。ただ、じっとして寝ていた。しかしその寝方にどことなく余裕ゆとりがない。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで子家鴨こあひるためしに三週間しゅうかんばかりそこにことゆるされましたが、たまごなんかひとつだって、うまれるわけはありませんでした。
かれ身を固めず、ジュダのためせし槍をひつさげてひとりかしこをいで、これにて突きてフィレンツェの腹をやぶらむ 七三—七五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
... 何でも一度ためして御覧なさい」玉江嬢「ハイ致してみましょう。それからね、先刻さっきお話し申しかけましたが老人や子供に食べさせるように牛肉を ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかしほんとうに約束があるか、どうか、其れは皆さんが自分で舞台へ出て、私の魔術をためして御覧になれば分ります。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたし危険区域きけんくいきせんをこえない範囲はんいでよくさうふう悪戯あくぎためしをするのであつたが、しかしまた事実じじつさうかもれないとおもはれないこともなかつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
入学試験があるというのですが、千住の小学校を出たばかりで世間知らずで、物はためしということがあるからと受験しましたら、合格したのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
集めて相談さうだんしける中長兵衞心付こゝろづき彼のくすりを猫にくはせてためしけるに何の事もなければ是には何か樣子やうすあるべし我又致方いたしかたあれ隨分ずゐぶん油斷ゆだんあるべからずとて又七を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
○彼女はじっとしてられなくなった。何かこころがっている。自分をためして見度みたがっている。自分の市場価値を。
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
どのみち、玉は出ぬとわかっているものを、さかしらだてて、領収うけとりの、ためし射ちのと騒ぎまわるじじいの気が知れない。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
童子どうじはこういって、おおぜいの腰元こしもと家来けらいにいいつけて、さけさかなをはこばせました。酒呑童子しゅてんどうじはそれでもまだ油断ゆだんなく、六にん山伏やまぶしためしてみるつもりで
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
申歳さるどしの生れの廿三、運を一時にためし相場をしたく思えど、貧者一銭の余裕もなく、我力にてはなしがたく、思いつきたるまま先生の教えをうけたくて」
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
広茫とした平野の中で、反響がどこまで行くかをためさうとして。すると不意に、前の草むらが風に動いた。何物かの白い姿がそこにかくれてゐたのである。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
それから——あァなんだかわけわからなくなつてしまつた!わたし平常ふだんつてたことみなつてるかうかためしてやう。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「この刀をためすことをいやがる机竜之助の気が知れぬ、と言って拙者の腕で試してみようという気にもならぬ」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや有難う、どうにかなりませう。骨が折れたのぢやないんだから——なに、一寸くぢいたゞけです。」そして彼は、また立上つて、足の方をためしてみた。
まだためしずりを見ないからどういふ風に出来るか分らない。始めはもちの葉を克明に写して暗い背景としようと思つたが、あまり煩はしい故、藍一色にした。
本の装釘 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
二、三十ペニヒで相当なものが吸われた。馬車屋クッチャーや労働者の吸うもっと安い葉巻で、吸口の方に藁切わらぎれが飛び出したようなのがあったがその方はためした事がない。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかして若きダルガスのこの言を実際にためしてみましたところが実にそのとおりでありました。小樅はある程度まで大樅の成長をうながすの能力ちからを持っております。
そして、どうでしょう、ペガッサスは帰って来たではありませんか! こうしてためしてみた以上は、もうその翼のある馬にも逃げられる心配はなくなりました。
「おまえの手であくかどうだか、まずためしてみろ」と、わたしも勇気を振るい起こして言った。「その間におれは鎧戸をあけて、外に何があるか見とどけるから」
下顎を突き出しながら、ちょっとの間それを見て、切先きっさきを手にあててためしてから、ジャケツの懐の中へ急いで隠すと、また元の場所へ戻って舷牆にもたれかかった。
ぼく松男君まつおくんはいつだったか、ろんよりしょうこ、ごんごろがねがはたしてごんごろごろとるかどうかためしにいったことがある。しずかなときをぼくたちはえらんでいった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
といって、いろいろと念仏信者の老人をためしたのです。すると老人の答えが実に振るっているのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
そういう自分ひとりの問答のうちに、彼は急にテーブルの引き出しを開き、中に隠してあった料理用の長いナイフを取り出し、指の爪を切ってみてその刃をためした。
ひめ一時いちじ本物ほんものかとおもつて内々ない/\心配しんぱいしましたが、けないはずだから、ためしてようといふので、をつけさせてると、ひとたまりもなくめら/\とけました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
君の感情は蛮人のやうに新鮮で、君の魂はいつも鵞鳥の卵のやうに牧草まきくさ地面ぢべたの間に転がつてゐた。君の感覚も神経も其処そこで自然のままに曝されためされ鋭く削られて来た。
君の感情は蛮人のやうに新鮮で、君の魂はいつも鵞鳥の卵のやうに牧草まきくさ地面ぢべたの間に転がつてゐた。君の感覚も神経も其処そこで自然のままに曝されためされ鋭く削られて来た。
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
むかしむかし、あるところに尻尾しっぽの九本ある古狐ふるぎつねがいました。古狐は、じぶんのおくさまが心がわりしたのではないかとうたぐって、おくさまをためしてみることにしました。
かれは、いまこそ自分じぶんちからためすときだとおもって、ちからいっぱいかぜなみとにたたかったのであります。
一本の銀の針 (新字新仮名) / 小川未明(著)
特殊とくしゅな教育環境かんきょうにおいて練りあげたものを、世間という普通ふつうの社会環境においてためそうというのが主目的であったが、また近県在住の第一回以来の修了者しゅうりょうしゃたちと親交を結び
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
何んなりとおためしに勝手に彫って下さい。そうしてお気に入ったものが出来ましたら、手前の方へお廻し下さい。すると、手前の方では、象牙の値と、手間とを差し上げます。
彼は競漕の間に自分の艇へ来ている敵の中堅がどれだけ漕力があるかためそうと思って、ラストで思いきり急にピッチを上げて見た。そして敵手のなかなか侮れないのを知った。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
すぐ桑畑に分け入って、桑の虫を捕らえ、これを鈎にさして、ためしに沼へ放り込んでみた。入れて間もなく当たりがある。上げると七、八寸の大型の鮒だ。続いてまた当たりだ。
桑の虫と小伜 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
それよりも、皆別れ別れに、自分の近いと思う道を歩いて、銘々の運をためして見ようか。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ともかくそれは、デイモンの馬鹿さ加減をためすのに丁度おもしろいと思ったからでした。
デイモンとピシアス (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
茫然ぼうぜんとした頭に、まだ他人の書いた文章を理解する力が残っているかどうか、それをためしてみるつもりだった。眼の前にひろげているのは、アナトール・フランスの短篇集だった。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「いや鏡葉之助殿、愚老毒などは差し上げません。どうぞ安心しておためしくだされ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
本の色彩をゴチヤゴチヤに積みあげて、一度この檸檬でためして見たら。「さうだ」
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
私はお前がそんなことを本気で云っているのかどうかためすようにお前の顔を見た。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「じゃ、俺の方でためしに啓けてみよう、お互いにいっしょにいられるようにな」
瞳人語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)