むだ)” の例文
智惠子は考へ深い眼を足の爪先に落して、歸路を急いだが、其心にあるのは、例の樣に、今日一日をむだに過したといふ悔ではない。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今からお眼が狂ふもの、乃公が時計はくるふたと、後のお詞聞かぬ為、私が合はしておきますると。ただ一分のその隙も、むだに過ごさぬ、竜頭巻。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
うらやまずあしたよりくるるまで只管ひたすら米をつきつぶにてもむだにせず其勤め方信切しんせつなりければ主人益々悦び多くの米も一向に搗減つきへりなく取扱ひ夫より其年の給金きふきん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
甘い香のする柿の花が咲くから、青いへたの附いたむだな實が落ちるまで、私達少年の心は何を見ても退屈しませんでした。
相師の一言のおかげで、かかる美容を持ちながら盛りの花をむだに過さしむるを残念がって、請わるるままに父が妙光を殺婦に遣った心の中察するに余りあり。
あいちやんは物憂ものうさうに長太息ためいききました。『この時間じかんで、もつとなにいことをしたはういわ、けもしないなぞをかけてむだ浪費つぶすよりは』とあいちやんがひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そして家へ歸ると直に、澤山の原書を取ツ散かした書齋に引籠ひきこもツて、ほんを讀むとか、思索に耽るとか、よし五分の時間でもむだに費やすといふことが無い。ひとから見れば、淋しい、單調な生活である。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
智恵子は考へ深い眼を足の爪先に落して、帰路かへりぢを急いだが、其心にあるのは、いつもの様に、今日一日をむだに過したといふ悔ではない。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
甘い香気においのする柿の花の咲くから、青いへたの附いたむだな実が落ちるまで、少年の時の遊び場所であった土蔵の前あたりの過去った日の光景はまだ彼の眼にあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
隱居の勘解由かげゆはもう六十の阪を越して體も弱つてゐるが、小心な、一時間もむだには過されぬと言つたたちなので、小作に任せぬ家の周圍の菜園から桑畑林檎畑の手入、皆自分が手づから指揮して
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
隠居の勘解由かげゆはモウ六十の坂を越して体も弱つてゐるが、小心な、一時間もむだには過されぬと言つたたちなので、小作に任せぬ家の周囲まはりの菜園から桑畑林檎畑の手入、皆自分が手づから指揮さしづして
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)