碧潭へきたん)” の例文
原始的にしてまた未来の風景がこの水にある。船は翠嶂すいしょう山の下、深沈しんちんとした碧潭へきたんに来て、そのさおをとめた。清閑せいかんにしてまた飄々ひょうひょうとしている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
紙鳶挙ぐる子供の、風の神弱し、大風吹けよと、謡ふも心憎しなど、窓に倚りて想ひを碧潭へきたん孤舟こしゅうせ、眼に銀鱗の飛躍を夢み、寸時恍惚たり。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
ゆうべの陽ざしに赤々と照らせながら、ヒラリ、裸の馬の背に打ち跨ったかと見るまに、水瀑躍る碧潭へきたんのすがすがしげな流れの中へ、サッと乗り入れました。
碧潭へきたん一脈いちみやくらんきて、ゆかしきうすものかげむとおぼえしは、とし庄屋しやうやもりでて、背後うしろなる岨道そばみちとほひとの、ふとたゝずみて見越みこしたんなる。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
十九日、朝のうちに付近の景勝を探ろうと、宿の女の子を案内に吹割ふきわりへ行ってみる。片品の水せばまりてけいをなしている処、奔流碧潭へきたん、両岸の絶壁いずれも凡ならず。一行いずれも意外の景色に驚く。
上手かみての眺めにもうち禿はげた岩石層はすくなく、すべてが微光をひそめた巒色らんしょくの丘陵であった。深沈しんちんとしたその碧潭へきたん
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
白金プラチナの羽の散るさまに、ちらちらと映ると、釵は滝壺に真蒼まっさおな水に沈んでく。……あわれ、のろわれたる仙禽せんきんよ。おんみは熱帯の鬱林うつりんに放たれずして、山地の碧潭へきたんたくされたのである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右にうずくまるのがライオン岩、深厳しんげんとして赭黒しゃこくである。と、舟はただちに遊仙ヶ岡の碧潭へきたんにさしかかる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
白金プラチナはねの散るさまに、ちら/\と映ると、かんざし滝壺たきつぼ真蒼まっさおな水に沈んで行く。……あはれ、呪はれたる仙禽せんきんよ。おんみは熱帯の鬱林うつりんに放たれずして、山地さんち碧潭へきたんたくされたのである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
晃 鐘は、高く、ここにあって——その影は、深く夜叉ヶ池の碧潭へきたんに映ると云う。……撞木しゅもくを当てて鳴る時は、こがらしにすら、そよりとも動かない、その池の水が、さらさらと波を立てると聞く。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それよりして奥入瀬川おいらせがは深林しんりん穿うがつてとほる、激流げきりう飛瀑ひばく碧潭へきたんの、いたところに、松明たいまつごとく、ともしびごとく、ほそくなりちひさくなり、またひらめきなどして、——くち湖畔こはんまでともなつたのは、この焚火たきび
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)