白露しらつゆ)” の例文
ただ死ねば何事も白露しらつゆと消えましょう。そして身も白骨になりさえすれば、どんな悪魔にも負けはしまい。あざ笑ってやれるでしょう。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何の樹とも知らないが、これが呼びものの、門口もんぐちに森を控えて、庭のしげりは暗いまで、星に濃く、あかりに青く、白露しらつゆつややかである。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山萵苣やまちさ白露しらつゆおもみうらぶるるこころふかまず 〔巻十一・二四六九〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
秋の早いみちのくに、九月の風がサッと吹きおろすと、ホロホロッと白露しらつゆは乱れ散った。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
げに消えやすき白露しらつゆ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
盂蘭盆うらぼんすぎのい月であつた。風はないが、白露しらつゆあしに満ちたのが、穂に似て、細流せせらぎに揺れて、しずくが、青い葉、青い茎をつたわつて、点滴したたるばかりである。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夕月夜ゆふづくよこころしぬ白露しらつゆくこのには蟋蟀こほろぎくも〔巻八・一五五二〕 湯原王
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
対方あいかた白露しらつゆきまった……桔梗屋の白露、お職だと言う。……遣手部屋の蚯蚓みみずを思えば、什麽そもさんか、狐塚の女郎花おみなえし
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茶屋ちややあとの空地あきちると、ひとたけよりもたか八重葎やへむぐらして、すゑ白露しらつゆ清水しみづながれに、ほたるは、あみ眞蒼まつさをなみびせて、はら/\とがけしたの、うるしごとかげぶのであつた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
紅梅焼こうばいやきと思うのが、ちらちらと、もみじの散るようで、通りかかった誰かのわり鹿黄金きん平打ひらうちに、白露しらつゆがかかる景気の——その紅梅焼の店の前へ、おまいりの帰りみち、通りがかりに
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美しき虹を、そのまま柱にしてえがかれたる、十二光仏じゅうにこうぶつの微妙なる種々相しゅじゅそうは、一つ一つにしきの糸に白露しらつゆちりばめた如く、玲瓏れいろうとして珠玉しゅぎょくの中にあらわれて、清くあきらかに、しかもかすかなる幻である。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俯向うつむけにつら/\とつらなり咲く紫の風鈴草、或はあけぼのの釣鐘草と呼びたいやうな草の花など——皆、玉川の白露しらつゆちりばめたのを、——其のきぬたの里に実家のある、——町内の私のすぐ近所の白井氏に
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、夜風よかぜも、白露しらつゆも、みなゆめである。かぜくろく、つゆあかからう。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
へるつた白露しらつゆが浮いて、村遠き森が沈んだ。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)