白布しろぬの)” の例文
彼が、指をさししめす卓子テーブルのうえには、どうも人の血らしいものが、たくさん地図のような形に、白布しろぬのをそめていた。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一人の水兵が進み出て白布しろぬので猿に目隠しをして遣つた。その時猿の痩せた手足は、ぶる/\震えた。猿は何か恐ろしい事が実行せられるのだと思つた。
(新字旧仮名) / ジュール・クラルテ(著)
博士の死骸は午後解剖に付せられるべく、解剖室に白布しろぬので覆われてありました。俊夫君は白布を取って一礼してから身体からだの諸方を手で撫でまわしました。
髭の謎 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ひとかたまりの白布しろぬののようなものを、手早く探偵の口におしつけて、しばらくのあいだ力をゆるめませんでした。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
暗い土間を通り越して、奥をのぞいて見たら、窓のそばはたえて、白い疎髯そぜんを生やしたじいさんが、せっせと梭をげていた。織っていたものはあら白布しろぬのである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白布しろぬのにておおうたる一個の小桶こおけを小脇に、柱をめぐりて、内をのぞき、女童のたわむるるをつつ破顔して笑う
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わし折々をり/\はらってもますのぢゃ、パリスどのゝはうが、ずっとをとこぢゃとうてな。すると、ほんことぢゃ、ぢゃう眞蒼まっさをかほにならっしゃる、圖無づな白布しろぬののやうに。
止めて待るゝに次右衞門三五郎の兩士亂髮らんぱつの上を白布しろぬのにてまき野服のふくまゝにてかたな
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あきれた。彼女かのぢよ屍體したい白布しろぬのおほはれて、その屍室ししつはこばれた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
紅木大臣はその間につかつかと寝台ねだいに近寄って、白布しろぬのを取りけました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
顔に白布しろぬのをかけている。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは松山が、白布しろぬのの張りかえのときに「痛いッ」と叫んだところのものであろうが、その傷はいつ頃からこうして出来ていたものか、たしかでなかった。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
覆いの白布しろぬのをのけると、瓶の中に、防腐液につけた、不気味なものが指を上にして、生えた様に立っていた。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
また暗碧あんぺき白布しろぬのを織って矢を射るように里へ出るのじゃが、その巌にせかれた方は六尺ばかり、これは川の一幅ひとはばいて糸も乱れず、一方は幅が狭い、三尺くらい
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝室にはベッドが置かれて、白布しろぬのに包まれた蒲団が掛けてありましたが、俊夫君はそれを取り除いて、敷布の上を熱心に探しました。そして枕の下から一本の毛を拾いあげて保存しました。
髭の謎 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
その佐藤は成立学舎の寄宿へ這入った。そこでまかない征伐をやった時、どうした機勢はずみか額にきずをして、しばらくの間白布しろぬので頭を巻いていたが、それが、後鉢巻うしろはちまきのようにいかにも勇ましく見えた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
泰定の宿所として古い萱ぶきの小屋が用意され、中は新しく飾られた。厚く綿の入った衣二かさね、小袖十かさねが長持に入れられて用意してあった。また紺藍摺こんあいずり白布しろぬのが千反も積んであった。
売場の陳列台はすっかり白布しろぬので覆われ、その大小高低様々の白い姿が、無数の死骸の様にころがっていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雁金検事のオーバーと、大江山課長の制帽とが、白布しろぬのおおった空寝台の上に並べて置かれた。それは竹田博士の死体と同じ位置に置かれたことはいうまでもない。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また暗碧あんぺき白布しろぬのつてるやうにさとるのぢやが、そのいはにせかれたはうは六しやくばかり、これかはの一はゞいていとみだれず、一ぱうはゞせまい、三じやくぐらゐ、このしたには雑多ざツたいはならぶとえて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
麻酔薬をしませた白布しろぬのを、彼女の口におしつけ、ぐったりとなるのを待って、そのからだを横だきにすると、窓をしめておいて、かた手で縄ばしごをのぼりはじめました。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「その鋲を使わせるために、犯人は湯呑み茶碗をひっくりかえさせて、白布しろぬのをとりかえました」
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これが、例の戸棚掛の白布しろぬのを、直ぐに使って一包み、昨夜の一刀を上にせて、も一つ白布で本包みにしたのを、薄々沙汰は知っていながら、信心堅固で、怯気びくともしないで、一件を小脇に抱える。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と正吉が飛退とびしさった。途端に白布しろぬのの包は、草に乗って一つ動く。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)