無骨ぶこつ)” の例文
大佐はひやゝかに片頬かたほに笑みつ「はア、閣下、山木には無骨ぶこつな軍人などは駄目ださうです、既に三国一の恋婿こひむこ内定きまつて居るんださうですから」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そうして、ほどなく、見た所から無骨ぶこつらしい伝右衛門を伴なって、不相変あいかわらずの微笑をたたえながら、得々とくとくとして帰って来た。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その時分じぶん鎌倉かまくら武家ぶけ住居やしきならんだ、物静ものしずかな、そしてなにやら無骨ぶこつ市街まちで、商家しょうかっても、品物しなものみな奥深おくふか仕舞しまんでありました。
無論むろん千葉ちばさんのはうからさとあるに、おやあの無骨ぶこつさんがとてわらすに、奧樣おくさま苦笑にがわらひして可憐かわいさうに失敗しくじりむかばなしをさぐしたのかとおつしやれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、わたしが、一声ひとこえかけさえすれば、あのおじいさんのような、無骨ぶこつまでがはなくのですよ……。
風と木 からすときつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
一進一退、うらむきおもてむき、立ったりしゃがんだり、黒紋付の袖からぬっと出たたくましい両の手を合掌がっしょうしたりほどいたり、真面目に踊って居る。無骨ぶこつで中々愛嬌あいきょうがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼処かしことこなたと、言い知らぬ、春の景色の繋がる中へ、わらびのような親仁おやじの手、無骨ぶこつな指でゆびさしして
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
末子の作之治さくのじが、どうも生来無骨ぶこつで融通のきかないのを案じて、都人の風流にして優しい様子でも見せようと思い、彼をともなって一か月あまりを京都二条の出店に逗留とうりゅう
綾麻呂 (しんみりと)わしは前からお前は本当に可哀想な奴だと思っていた。……幼いうちから、お母さんにも死別れて、儂のような無骨ぶこつな父親の手ひとつに育てられて来た。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
無骨ぶこつ一偏の者がはからぬ時にやさしき歌をうたうとか、石部金吉いしべきんきちと思われた者に艶聞えんぶんがあるとか、いずれも人生の表裏であるまいか。しかしこれあるは決して矛盾むじゅんでない、あるこそ当然である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
往来を仕切った無骨ぶこつな木柵もおもしろければ、家の前に刈り込まれた植木も(刈り込み方は技巧を凝らし過ぎてはいるけれども)おもしろく、後園に通じる木柵と冠木門かぶきもんもしゃれたものであり
シェイクスピアの郷里 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
隨分無骨ぶこつなる調子にて始はフト吹出すやうなれど嶮しき山坂峠をば上り下りに唄ふものなればだみたるふしも無理ならず其文句に至りては率直にして深切しんせつありのまゝにして興あり始の歌木曾の山のさぶき
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
午後には見知らない青年が一人、金の工面くめんを頼みに来た。「僕は筋肉労働者ですが、C先生から先生に紹介状をもらいましたから」青年は無骨ぶこつそうにこう云った。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今日けふようなしのなればとてあに終日しゆうじつ此處こゝにありけり、こほり取寄とりよせて雪子ゆきこつむりひや附添つきそひ女子をなごかはりて、どれすこわしがやつてやうと無骨ぶこつらしくいだすに、おそいります
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たとえば無骨ぶこつ一偏の人と思った者にして、案外にも美音を発して追分おいわけうたう、これも一つの表裏ではあるまいか。またひげもやもやの鹿爪しかつめらしきおやじが娘の結婚の席上で舞を舞いていわうことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
時によると又幅の広い肩を揺すつて、しはがれた笑ひ声を洩す事もあつた。それは無骨ぶこつなトルストイに比べると、上品な趣があると同時に、何処どこか女らしい答ぶりだつた。
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
無骨ぶこつぺん律義りつぎをとこわすれての介抱かいほうひとにあやしく、しのびやかのさゝややが無沙汰ぶさたるぞかし、かくれのかたの六でうをばひと奧樣おくさましやく部屋べや名付なづけて、亂行らんげうあさましきやうにとりなせば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
植村うゑむらさまもいおかたであつたものをとおくらへば、なにがあのいろくろ無骨ぶこつらしきおかた學問がくもんはえらからうともうで此方うちのおぢやうさまがつゐにはならぬ、つからわたしめませぬとおさんりきめば
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)