わん)” の例文
おかには南蛮なんばん屋敷があり、唐人館とうじんかんむねがならび、わんには福州船ふくしゅうぶねやスペイン船などの影がたえない角鹿つるが(いまは敦賀つるがと書く)の町である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おつおとこだけは、だれもいないしまのこって、こうへい二人ふたりが、いさましいごえをしながら、わんからおきほうてゆくのを見送みおくっていたのであります。
幽霊船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
向うに見える太い鉄管てっかんは、海面かいめんすれすれまで下りている。重い毒瓦斯は、あの方へ排気はいきするんだ。風下はベンガルわんだ。
ゆくときの困難こんなんにひきかえて、帰りは一歩もまようところなく、わずか六時間でサクラわんの波の音をきくことができた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
さてその人と私らはわかれましたけれども、今度こんどはもう要心ようじんして、あの十けんばかりのわんの中でしか泳ぎませんでした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
つまり、いたるところにわんがいりこんでいて、それが陸地を、島やら、半島はんとうやら、みさきやらにきりわけているのです。
西南せいなん一帯の海のしおが、浮世の波に白帆しらほを乗せて、このしばらくの間に九十九折つづらおりある山のかいを、一ツずつわんにして、奥まで迎いに来ぬ内は、いつまでも村人は、むこうむきになって
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
波もなき二月のわん
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やはり海岸かいがんって、いっしんにおきほうていますと、なつかしい、見覚みおぼえのある仲間なかまっているふねが、なみってわんなかへはいってきました。
幽霊船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この公園もおかになっている。白樺しらかばがたくさんある。まっさおな小樽わんが一目だ。軍艦ぐんかんが入っているので海軍にははたも立っている。時間があれば見せるのだがと武田たけだ先生が云った。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「それにね、あたしは、ユストのように美しい海岸は、どこにもないって、おおぜいの人たちが言ってるのを聞いたわよ。ほら、あのわんや、島や、荘園しょうえんや、森を考えてごらんよ。」
サクラわんとは、少年連盟のサクラ号が漂着ひょうちゃくした湾に少年たちが名づけた名称めいしょうである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
雪枝ゆきえむね伸上のしあげて、みさき突出つきでわんそとのぞむがごと背後状うしろざま広野ひろのながめた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
にんは、わんなかに、ふねすすめてようすをうかがいますと、たくさんさかながはいっているけはいがしました。
幽霊船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれども、まったく見えなくなると、そのこともだんだんわすれるものです。わたくしたちはまたつめたい水にんで、小さなわんになった所をおよぎまわったり、岩の上を走ったりしました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ガンの仲間たちは、「ガンわん」にある、草も木もえていない島におりました。みんなは、きしべをひとめ見て、あちこちの島にいっているあいだに、春がだいぶ深まったことがわかりました。
「やあ、サクラわん岩壁がんぺきのつづきじゃないか」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
はじめはこの前のわんのところだけおよいでいましたがそのうちだんだん川にもなれてきて、ずうっと上流じょうりゅうなみあらのところから海岸かいがんのいちばん南のいかだのあるあたりへまでも行きました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)