旱魃かんばつ)” の例文
ことに去年きょねんからのここら全体ぜんたい旱魃かんばつでいま外へあそんで歩くなんてことはとなりやみんなへわるくてどうもいけないということを云った。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それは寛正の頃、東国おおい旱魃かんばつ太田道灌おおたどうかん江戸城にあって憂い、この杉の森鎮座の神においのりをしたしるしがあって雨降り、百穀大にみのる。
しかしこの井戸が最も深く、水もまた最も清冽で、どんな旱魃かんばつにもかつてれたことがないので、この屋敷では清水の井戸といっていた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
春の頃からひどく旱魃かんばつの打ちつづいた承安四年の事、清涼殿で雨乞あまごいが執行とりおこなわれたが、誰が祈祷きとうにあたっても、一滴の雨も降らなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんど、どこか旱魃かんばつの土地のうわさでも聞いた時には、私はこの着物を着てその土地に出掛け、ぶらぶら矢鱈やたらに歩き廻って見ようと思っている。
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
あの、雪をつかねた白いものの、壇の上にひれ伏した、あわれなさまは、月を祭る供物に似て、非ず、旱魃かんばつの鬼一口の犠牲にえである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことに湖水の流れるところでありますから、旱魃かんばつということを感じたことはございません。実にその兄弟はしあわせの人間であったと思います。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
こういう大貯水湖は、洪水防禦に役立つばかりでなく、豊富な灌漑水を供給してくれるので、旱魃かんばつも防げる。
自由と進歩 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そうだ、用水池ようすいいけつくって、むら旱魃かんばつからすくった、ごろみんなの尊敬そんけいしているひとでした。老人ろうじんはいいました。
きつねをおがんだ人たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
彦太郎が舌打して、旱魃かんばつで水量の減った唐人川とうじんがわに沿うて下って行くと、背中に、掘立小屋の中で、妙な節廻ふしまわしで李聖学が朝鮮の歌を呶鳴っている声が聞えた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
旱魃かんばつがあった。雲霞うんかのような蝗虫いなごの発生があった。収穫はすべて武器を持った者に取りあげられてしまった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
だが、つらいことには領内に水害があろうが旱魃かんばつがあろうが、そんなことにはお構いなしに返済するとある。
増上寺物語 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
旱魃かんばつ洪水の神があるならその神様を怨んでやる——怨めしいのはご領主様じゃ! いかに去年の間中、旱魃と洪水にたたられて穀物の収穫とりいれがなかったにしても
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夏時、晴天が続き旱魃かんばつが起こり、苗が枯死せんとする場合に、農村にては雨ごいをする。その雨ごいに村中多人数相伴い、高山に登り山霊に祈願することが多い。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
雨乞いもかつてはこれと近い悪霊のわざと考えていたようで、よく似た様式を以て旱魃かんばつの神を駆逐した。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
老人は、夏が旱魃かんばつであればその秋の紅葉は出来がよい、と言ったが、それは必ずしも当たらなかった。
京の四季 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
どんな旱魃かんばつが續いた時にも、水量の減じたことのないと云はれてゐた山ノ手の大井戸でさへ、一月十五日の二度目の大地震のためにすつかり調子を狂はせて、稍々ややもすると
水不足 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
旱魃かんばつに苦しむ際、雨乞いのために、この向うの農ガ池へ、野宿を重ねてお詣りに来る、これはよほど昔からのしきたりらしいが、こうした人々の心がけは申すまでもないとして
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
旱魃かんばつ饑饉ききんなしといい慣わしたのは水田の多い内地の事で、畑ばかりのK村なぞは雨の多い方はまだ仕やすいとしたものだが、その年の長雨には溜息をもらさない農民はなかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
旱魃かんばつがひどく利く。太鼓を叩いて雨乞いをしろというのはそこだ。引佐川は村の裾を流れているけれど、村の方が高いから、何の足しにもならない。低い西引佐丈けが恩恵を蒙る。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この頃の旱魃かんばつと虫害で、米価があがり、隣境からいりよねがこなくなって、餓死人が出来たので、倉を開いて賑わしたが、元価を取りて利益を取らず、また粥を焚いて貧民をすくったので
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
まア/\これでお米を買うがよろしいとか、店賃たなちんを納めたがかろうとか、寒いから質に入れてある布子ぬのこを出して来たら宜かろうと、母子おやこ三人が旱魃かんばつに雨を得たような、心持こゝろもちになり
いちど台風や豪雨や旱魃かんばつがくれば、人間の造りあげたものなどはけしとんでしまう。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
池がこの旱魃かんばつ乾上ひあがって沼みたいになりかかっているところがあるんです。その沼へ踏みこもうという土のやわらかいところに、格闘かくとうあとらしいものがあるんです。靴跡がみだれています。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たとえばマッキンレーが始めて大統領に選ばれたときに馬鈴薯ばれいしょの値段が暴騰したので、ウィスコンシンの農夫らはそれをこの選挙の結果に帰した。しかし実は産地の旱魃かんばつのためであった。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分の眼が、ひとたびその邪念のきざさないぽかんとした顔にそそぐ瞬間に、僕はしみじみ嬉しいという刺戟しげき総身そうしんに受ける。僕の心は旱魃かんばつに枯れかかった稲の穂が膏雨こううを得たようによみがえる。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は恋ひこがれ、背後にヒビがわれ、骨の中が旱魃かんばつの畑のやうに乾からびてゐるやうだつた。私はラヂオの警報がB29の大編隊三百機だの五百機だのと言ふたびに、なによ、五百機ぽつち。
続戦争と一人の女 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
多摩川遠い此村里では、水害のうれいは無いかわり、旱魃かんばつの恐れがある。大抵は都合よく夕立ゆうだちが来てくれる。雨乞あまごいは六年間に唯一度あった。降って欲しい時に降れば、直ぐ「おしめり正月」である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そこに虫の害があるではないか、旱魃かんばつがあるではないか、洪水おおみずがあるではないか、大風があるではないかとある人はいうだろう。自然を相手の仕事は、一面じつに正直であり、一面じつに冒険である。
最も楽しい事業 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
どこにも旱魃かんばつで悩まされた地方というのはなかった。
ズラかった信吉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
自らまた力尽きてたふれる旱魃かんばつの河!
象徴の烏賊 (新字旧仮名) / 生田春月(著)
ひどい旱魃かんばつがつづいて、諸国窮民きゅうみんにみち、道にあわれな屍臭ししゅうが漂い、都下の穀物は暴騰ぼうとうし、ちまたの顔は干からび、御所の穀倉すら貢物こうもつなく
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たびたびの寒さと旱魃かんばつのために、いまでは沼ばたけも昔の三分の一になってしまったし、来年はもう入れるこやしもないのだ。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あの、雪をつかねた白いものの、壇の上にひれ伏した、あはれなさまは、月を祭る供物くもつに似て、あらず、旱魃かんばつ鬼一口おにひとくち犠牲にえである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その以来、龍の再び抜け出さないように、鉄のくさりをもって繋いで置くことにした。旱魃かんばつのときに雨を祈れば、かならず奇特きどくがあると伝えられている。
どうか旱魃かんばつの時にはこの村の田畑に水の枯れぬように、どうか小供の水難を救われるようにと祈祷きとうをして、さてこの池をば稚子ちごふち明神みょうじんと名づけたのである。
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
十二節に「これその青くしていまだらざる時にも他の一切すべての草よりは早く枯る」とあるは、旱魃かんばつきたりて水退くやこの二つの草がたちまち枯るることをいうたのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ただしこういうのは多くは灌漑かんがいの設備がなく、したがってひでりの年にはかえってまず苦しまなければならぬので、むしろ低湿な沼地を選び、よそでは旱魃かんばつで困るような年を
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
事実この時代の天変地妖は、物恐ろしいほどであって、明和七年から八年にかけ、諸国は非常な旱魃かんばつに襲われ、小田原のごときは一日一人に、水一升とされたほどである。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただしかし、天災に対する抵抗力の弱い当時の農耕は、民衆の生活にしばしば不時の変調を起こさせた。気候激変、長雨、洪水、暴風、旱魃かんばつ、虫害、それらのあるたびごとに饑饉ききんが起こる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
これは水溜みずためで、旱魃かんばつの時の用意でございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
(二一)旱魃かんばつの際、雨を祈る法
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
というのは、その夏の旱魃かんばつやら秋ぐちの大洪水で、特に、水滸すいこの周辺は五、六百里にもわたってひどい飢饉ききんを来したのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きっと今年は去年きょねん旱魃かんばつめ合せと、それから僕の授業料じゅぎょうりょうぐらいをってみせる。実習は今日も苗代掘なわしろほりだった。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この年は正月から照りつづいて江戸近国は旱魃かんばつに苦しんだと伝えられているが、白河から北にはその影響もなくて、五月の末には梅雨つゆらしいしめり勝ちの暗い天気が毎日つづいた。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御承知でもあるでしょう、また御承知がなければ、恐らく白痴ばかと言わんけりゃならんですが、このひでりです、旱魃かんばつです。……一滴の雨といえども、千金、むしろ万金の場合にですな。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ河内地方は去年も今年もあいにくな旱魃かんばつで作物のみいりはよくなく、蓄備の郷倉も水分みくまりの土倉もその底は浅かった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高橋君のところは去年きょねん旱魃かんばつがいちばんひどかったそうだから今年はずいぶん難儀なんぎするだろう。それへくらべたらうちなんかは半分でもいくらでもれたのだからいい方だ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
くの通りの旱魃かんばつ、市内はもとより近郷きんごう隣国りんごくただ炎の中にもだえまする時、希有けう大魚たいぎょおどりましたは、甘露かんろ法雨ほううやがて、禽獣きんじゅう草木そうもくに到るまでも、雨に蘇生よみがえりまする前表ぜんぴょうかとも存じまする。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
清涼殿や各寺院などで、よく旱魃かんばつのために雨乞いをしたりするのを、彼は大いに笑っていた。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)