はずか)” の例文
私は自分の親が、貧乏人であることを、はずかしく思うようになった。七ツ八ツの小児こどもに似ず、物事に遠慮深く、ひけ目がちになった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
続きの菜っ葉服を見て貰いたいためででもあるように、頭を上げて、手をポケットで、いや、おはずかしい話だ、私はブラブラ歩いて行った。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「ああ、矢部君のことですか。彼はあなたに会うのがはずかしいといって逃げたんです。だが、私にまかせて置きなさい。わるいようにはしない」
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分の真実の血で、彼女のいつわりの贈物を、真赤に染めてやるのだ。そして、彼女のわずかに残っている良心を、はずかしめてやるのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「あの……私が、自分から、言います事は出来ません、おはずかしいのでございますが、舞の真似まねが少しばかり立てますの、それもただ一ツだけ。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これほど迄にののしられ、はずかしめられ乍らも、高々と腕を組んだ喜三郎の逞ましい顔には、何の悔も無いのが不思議です。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
翌朝よくちょうかれはげしき頭痛ずつうおぼえて、両耳りょうみみり、全身ぜんしんにはただならぬなやみかんじた。そうして昨日きのうけた出来事できごとおもしても、はずかしくもなんともかんぜぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はずかしい目にあった時などは、黙って皆を見返して考えていると、一番いいのよ。いかりくらい強いものはないけど、怒をじっと我慢しているのはなお偉いわ。
そしたらO先生が「折角人工雪が出来たのに、寺田さんがいなくて張り合いがないでしょう」と言われた。私はふっと涙が出そうになって少しはずかしかった。
これは今日の女子教育の程度から見て工学士の妻としてはずかしからぬ婦人であることは誰も同意するであろう。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
松次郎はもう二度ばかり門附かどづけに行ったことがあるので、一向平気だったが、始めての木之助ははずかしいような、誇らしいような、心配なような、妙な気持だった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
小説の中の蝴蝶も、自分の年とおなじ位だと思うと、彼女は自分の肌を、美妙斎に、描写されたようにはずかしかった。それは、いつぞや、自分のことを言ってやったふみ
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
何もせぬのに夜通し痛がっていたので、乳腺炎にゅうせんえんになったのかと大学病院へ行き、歯形が紫色むらさきいろににじんでいる胸をさすがにはずかしそうにひろげててもらうと、乳癌にゅうがんだった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それにしても余り無躾ぶしつけな質問ではないか。彼はこれまで一度も辻堂の怨霊について人に話したことはなかった。はずかしくってそんな馬鹿馬鹿しいことが云えなかったのだ。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
昼間は店のものに見られるのさえ、はずかしいなりをしていましたから、わざわざけるのを待った上、お父さんの寝間ねまの戸をたたいても、御眼にかかるつもりでいたのです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
母は、新しい町であったので、はずかしかったのであろう、ちょっと父のうでをつかんだ。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「花岡にはじをかかせてやる。きみはずかしめられればしんす。正三位、切腹するぜ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼等避難民は、こうして巧妙に裏からと表からと皮肉られ、はずかしめられながら、大きな声で不平も云い得ぬ。それかといって、避難バラック大会を開いて、輿論よろんに訴えるという図々しさもない。
おとうさんが、きつぱりと云ひますと、先に云ひ出したおかあさんがいそいそとしたなかにもすこしはずかし相なあからめた顔色を見せました。わが母ながら美くしい愛らしいと、むすめはそれを眺めました。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
はずかしくて姿を隠していたのでないかということを考えた。
抜髪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はずかしいと見えて、そでで顔をかくしているが、だんだん退屈して来たと見え板の間に荒づくりの矢竹が二、三十ちらばってるのをいじっていたが
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
母には云わなかったけれど、貧乏人であることが、悲しく、はずかしくなって、その日からロスケを見にゆかなくなった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
寄りそうように坐りましたが、花嫁は黙りこくってまだ物も言いません、多分はずかしさに消え入り度い心持でしょう。
はずかしい話であるが、現在の我国わがくにの科学界は世界の水準を抜いているように新聞や雑誌などに時々書かれていることもあるが、それはどうも余所眼よそめの話で、本当に内部に入って
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
坊主には候わず、出家にははんべらじ。と、波風のまぎれに声高に申ししが、……船助かりしあとにては、婦人のかおよきにつけ、あだ心ありて言いけむように、色めかしくも聞えてあたりはずかし。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ると、まるで空々そらぞらしい無理むり元気げんきして、いて高笑たかわらいをしてたり、今日きょう非常ひじょう顔色かおいろがいいとか、なんとか、ワルシャワの借金しゃっきんはらわぬので、内心ないしんくるしくあるのと、はずかしくあるところから
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それは倶楽部クラブで麻雀をうっているとき、不図ふと足の下を見ますと、アノ脱脂綿が落ちていましたもんで、まアはずかしいことだと思いソッと拾いあげたんです。それは、もうやめるすこし前のことでした。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
煙客翁はそう答えながら、妙にはずかしいような気がしたそうです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と赤い小鳥が、青い小鳥に、はずかし相に云いました。
トシオの見たもの (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
父が、この上兄をはずかしめないように、兄が大人しく出てれるようにと、心ひそかに祈っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お沢 はい、何も申しませぬ、ただ(きれぎれにいう)おはずかしう存じます。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨日今日の日和ひよりに、冬の名残なごりんやりと裸体からだに感ぜられながらも、高い天井てんじょうからまぶしい陽光ひかりを、はずかしい程全身に浴びながら、清澄せいちょう湯槽ゆぶねにぐったりと身をよこたえたりする間の、疲れというか
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
片褄かたづま取って、そのくれないのはしのこぼれたのに、猶予ためらってはずかしそう。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが水戸はひとり、はずかしそうに静かに微笑した。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
美女 まあ、なさけない、おはずかしい。(袖をもっておもておおう。)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はずかしゅうございますわ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)