御者ぎょしゃ)” の例文
わたくしを以て虎威を借る狐にあらずば晏子あんしの車を駆る御者ぎょしゃとなすかも知れない。わたくしはむしろ欣然として此の嘲を受けるであろう。
木犀の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その町で、荷馬車の御者ぎょしゃに会って、その人の車に乗せてもらって、その晩のうちに、自分の住んでいる町へ、帰ろうと思ったのです。
これは二三日前是公といっしょに馬車に乗って、市中を乗り廻した時、是公の御者ぎょしゃから二十銭借りて大連の薬屋で買ったものである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御者ぎょしゃは大ねずみになるし、べっとうはとかげになるし、着ている着物も、もとのとおりのぼろになるのだから、といってきかせました。
わたしたちがみんな船の上に乗ってしまうと、まもなく船をつないだ大づなはかれて、船頭はかじを、御者ぎょしゃづなを取った。
この時、大梁の方角から旅車の一つがわだちを鳴らして来たが荘子の前へ来ると急に止まって御者ぎょしゃ台の傍から一人の佝僂せむしが飛降りた。近付いて来ると
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
幸いに御者ぎょしゃ先生は十六、七の小僧君。将軍早速談判して、八時までに今市へ着けば五十銭の酒代をやることにした。
しば/\馬にむちを加える苛酷な御者ぎょしゃの、その腰にさびしく巻きつけられた赤い古毛布のいろがよくそれを語っていた……とわたしはかすかにおぼえている。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
動物園の前には一りょうの馬車が待っていた。白いハッピを着た御者ぎょしゃはブラブラしていた、出札所しゅっさつしょには田舎者らしい二人づれが大きな財布からぜにを出して札を買っていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ヂュリ けよはやう、あし若駒わかごまよ、かみ宿やどります今宵こよひ宿やどへ。フェートンのやうな御者ぎょしゃがゐたなら、西にしへ/\とむちをあてゝ、すぐにもよるれてうもの、くもったよるを。
もとは或由緒のある剣客の思いものであったその伯母は、時代がかわってから、さる宮家の御者ぎょしゃなどに取立られていた良人おっとが、悪い酒癖しゅへきのために職をめられて間もなく死んでしまった後は
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
父はその御者ぎょしゃ、姉は曲馬団の調馬師、兄弟はすべて道路の地ならし用蒸気ロウラアに乗り組んでいる小意気な船員たちだと、ユウモラスなつもりだろうが、このごろ流行はやるナンセンス文学みたいな
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
なんだ、あの冷やかな、横柄な、がむしゃらな御者ぎょしゃは。貴様がおれを乗せて歩いている間、おれはのべつに計算をしている。とても貴様に金を払う気はしない。もう降りないでいたほうがましだ。
するくらいなら、歩いてかえるほうがよっぽどいいや。いやなこった、それじゃ、まるで話がちがうもの。御者ぎょしゃになって、御者台にすわるんならべつだけど、じぶんでひっぱるなんてのはごめんだぜ。
御者ぎょしゃは道のりの半分以上もよく眠ってきたのに、——それはわたしがいちばんよく知っていますが——まだ手足をのばしていました。
余は神経質で臆病な性分しょうぶんだから、車が傾くたんびに飛び降りたくなる。しかるに人の気も知らないで、例の御者ぎょしゃが無敵に馬をけさせる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
書記が一人であとのせき占領せんりょうしていた。マチアはかれが御者ぎょしゃに向かって、ベスナル・グリーンへ馬車をやれと言いつけているのを聞いた。
御者ぎょしゃ懶惰ぶしゃうはしため指頭ゆびさきから發掘ほじりだ圓蟲まるむしといふやつ半分はんぶんがたも鼠裝束ねずみしゃうぞくちひさい羽蟲はむし車體しゃたいはしばみから、それをば太古おほむかしから妖精すだま車工くるましきまってゐる栗鼠りす蠐螬ぢむしとがつくりをった。
三時には馬車が喇叭らっぱを鳴らして羽生から来たが、御者ぎょしゃは今朝荻生さんに頼んでやった豚肉の新聞包みを小使部屋にほうり込むようにして置いて行った。包みの中にはねぎと手紙とが添えてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
けれども、まだ御者ぎょしゃがありませんでした。
すると御者ぎょしゃがわたしの手提てさげを投げる。
ガラスのようにぴかぴか光る馬車がすばらしい馬に引かれて、その上にこなをふりかけたかつらをかぶった大きな太った御者ぎょしゃが乗っていた。
御者ぎょしゃは馬のくつわを取ったなり、白いあわを岩角に吹き散らして鳴りながら流れる早瀬の上にけ渡した橋の上をそろそろ通った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなにすばらしい景色けしきのところへ来ても、みんなねむっていました。御者ぎょしゃはラッパを吹きならしました。
それからわたしたちはもっとひどいびんぼう町のはうへ曲がって、ときどき御者ぎょしゃも道がわからないのか、馬車を止めた。
むちの影は間もなくまたひらめいた。ほこりだらけの御者ぎょしゃは人にも車にも往来にも遠慮なく、滅法無頼めっぽうぶらいに馬を追った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると、今度は、御者ぎょしゃと料理女も踊り出しました。つづいて、下男と女中たちも、見ていたお客さんたちも、みんな踊りはじめました。そればかりではありません。
その御者ぎょしゃはもう一時間ぐらいで村に出られると言った。これで元気がついたが、歩くことは困難こんなんでもあり苦しかった。雪がわたしのこしまでついた。
御者ぎょしゃは二、三度そっとうしろをり向きました。もしかしたらあの人が、黄色いしゅすの外套を着て、棺の上にすわっていはしないかと、心配しているようでした。
自動車の御者ぎょしゃになってお客を乗せれば——もっとも自動車をもつくらいならお客を乗せる必要もないが——短い時間で長い所が走れる。糞力くそぢからはちっとも出さないですむ。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するとそこに大きな自働車が御者ぎょしゃを乗せたまま待っていたので、少し安からぬ感じがした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御者ぎょしゃ下僕げぼく先乗さきのりが、——そうです、先乗りまでがいたんですよ——みんな、金の冠をかぶって、ひかえていました。王子と王女は、ゲルダをたすけて馬車に乗せてくれました。
前に客待の御者ぎょしゃが一人いる。御者台ぎょしゃだいから、この有様を眺めていたと見えて、自分が帽子から手を離して、姿勢を正すや否や、人指指ひとさしゆびたてに立てた。乗らないかと云う符徴ふちょうである。自分は乗らなかった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ハハハありゃ御者ぎょしゃでも亭主でもないんだとさ。弱ったな」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
台上だいうえから飛び下りた御者ぎょしゃはすぐ馬の口を取った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ありゃ御者ぎょしゃかね」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「君は御者ぎょしゃかい」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)