好事ものずき)” の例文
ちっと変った処で、好事ものずきに過ぎると云う方もございましょう。何しろ片寄り過ぎますんで。しかし実は席をめるのに困りました。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
麦倉邸のまえには好事ものずきの村の男が日夜に群集するので、村役人は農事の妨げになると云って其の門前へ掲示をだした。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
甲田さんも随分好事ものずきな事をする人ですなあ。乞食してゐて五十銭も貰つたら、俺だつて歩くのが可厭いやになりますよ。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
古来、田舎にて好事ものずきなる親が、子供に漢書を読ませ、四書五経を勉強する間に浮世の事を忘れて、変人奇物の評判を成し、生涯、身を持て余したる者は、はなはだ少なからず。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「もウ咄したか、まだ咄さぬか」と思えば胸も落着かず、臆病おくびょう好事ものずきな眼を額越ひたえごしにそッと親子へ注いでみればお勢は澄ました顔、お政は意味の無い顔、……咄したとも付かず、咄さぬとも付かぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
けれどもかたの事だから川よりは平穏だから、万一まさかの事もあるまい、と好事ものずき連中れんじゅうは乗ッていたが、げた者も四五人はッたよ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この言葉は、ひどく甲田の心を害した。たとひ對手が何にしろ、旅をして困つてる者へ金を呉れるのが何が好事ものずきなものかと思つたが、たゞ苦笑ひをして見せた。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
つむじ曲りが、娑婆気しゃばっけな、わざと好事ものずきな吾妻下駄、霜に寒月の冴ゆるの更けて帰る千鳥足には、殊更に音を立てて、カラカラと板を踏む。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この言葉は、ひどく甲田の心を害した。たとへ対手が何にしろ、旅をして困つてる者へ金を呉れるのが何が好事ものずきなものかと思つたが、ただ苦笑ひをして見せた。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
青年は、好事ものずきにも、わざと自分の腰をずらして、今度は危気あぶなげなしに両手をかけて、揺籠ゆりかごのようにぐらぐらと遣ると
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甲田さんも隨分好事ものずきな事を
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
世に推事おしごとというは出来ぬもので、これがな、腹に底があってした事じゃと、うむとこらえるでござりましょうが、好事ものずき半分の生兵法なまびょうほうえらく汗をきました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お縁側が昔のままでございますから、もと好事ものずきでこんなに仕懸けました。鶯張うぐいすばりと申すのでございますよ。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愚僧は好事ものずき——お行者こそ御苦労な。江戸まで、あの荷物をおくりと見えます。——武士さむらいは何とした、しんえて、手足が突張つっぱり、ことほか疲れたやうに見受けるな。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と笑いながら幹事が最初挨拶あいさつした、——それは、神田辺の沢岡という、雑貨店の好事ものずきな主人であった。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、その儀なら仔細しさいはござらん、またどこの好事ものずきじゃと申して、そんな峠へ別荘でもござりますまい。……まず理窟はいて、誰だか買主が分らぬでございます。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夥間なかまの友だちが話しました事を、——その大木戸向うで、蝋燭のにおいを、ぷん酔爛よいただれた、ここへ、その脳へ差込まれましたために、ふと好事ものずきな心が、火取虫といった形で
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、思い思いではあるけれども、各自めいめい暗がりの中を、こう、……不気味も、好事ものずきも、負けない気もまじって、その婆々ばばあだか、爺々じじいだか、稀有けぶやつは、と透かした。が居ない……
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
好事ものずき蹲込しゃがみこんで、溝板を取ろうとする、め組は手品の玉手箱のふたを開ける手つきなり。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風説うわさの通り、あの峠茶屋の買主の、どこのか好事ものずきな御令嬢が住居すまいいたさるるでも理は聞える。よしや事あるにもせい、いざと云う時に遁出にげだしましてもさそうなものじゃったに……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その近処の病家へきました時に、其家そこの作男が、沼を通りがかりに見て来たって、話したもんですから、やど貴下あなた好事ものずきにその男を連れて帰りがけに、廻道まわりみちをして、内の車夫わかいしゅに手伝わして
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
好事ものずきさ、好事ものずきで、変つた話でもあつたら聞かう、不思議なことでもあるなら見ようと思ふばかり、しかしね、其を見聞みきくにつけては、どんな又対手あいてに不心得があつて、危険けんのんでないとも限らぬから
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ばあさん、風説うわさを知りつゝうやつて一人で来た位だから、打明けて云ひます、見受けたところ、君は何だ、様子が宛然まるで野のぬしとでもいふべきぢやないか、何の馬鹿々々ばかばかしいと思ふだらうが、好事ものずきです
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と紋床も好事ものずきなり、ばりかんを持ったままで仕事の最中。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)