くさめ)” の例文
鉤は鼻へ触ったり、頬へ止ったりしたが、其内に間違って口に入った。その時伯父さんは止せばよいのにくさめをして口を堅く閉じてしまった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すると不意に、茂作の家の屋根のあたりでそれは/\大きな声で、つづけさまに、二つ三つくさめをするものがありました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
不意に先達の婦がエイッチェとくさめをした。吃男はそれには目もやらずに又いきなり火でも燃え附いたようにはね起きた。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
碁を打つてめちやめちやになる信仰やくさめをしてけし飛んでしまふ哲学なぞも、牧師の抽斗ひきだしにはたんと有るものと見える。
「この目玉はこれで三代目なんですよ。初代のやつも二代目も、大きなくさめをした時飛び出しましてね、運悪く石の上だったものですから割れちゃいました」
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
四邊あたり其香そのにほひで大變たいへんでした。公爵夫人こうしやくふじんでさへも、ッちやんとほとんどかはる/″\くさめをして、せるくるしさにたがひ頻切しツきりなしにいたりわめいたりしてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
やがて、読み終ると、ためいきのような、くさめのような、妙なせきを、一つした。それから、手紙を、机のうえに、一枚目から、ずらりと、順に横にならべて
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
一度くさめをするのは、誰かが讃めているしるし、二度すれば女が惚れている、三度すれば誰かがほめるなりけなすなりしている、四度すれば風邪を引いたのだ。
「おじさまに、それが判るもんですか。ほら、いま、おじさまはくさめをなすった、ぞっとお寒気がしたのでしょう、ほら、ほら、なんだか、すうとしちゃった。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
日中はまだ暑かつた東京から、薄着をして來た姉妹は、伊香保の宿に着くまでに、いく度もくさめをした。
新婚旅行 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
夫は心たけく、人のうれひを見ること、犬のくさめの如く、唯貪ただむさぼりてくを知らざるに引易へて、気立きだて優しとまでにはあらねど、鬼の女房ながらも尋常の人の心はてるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
下総しもふさ市川いちかは中山なかやま船橋辺ふなばしへん郊行かう/\興深きようふかからず、秋風あきかぜくさめとなるをおぼえたる時の事にそろ。(十七日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
さていよいよ駒を生んでより馬ども耳を垂れてくさめおくびにも声せず、商主かの牝馬飛んだものを生んでわが群馬を煩わすとにくむ事大方ならず、いつもこれに乗りき食物を与えず。
この間も汪克児オングルは、ところ狭しと独りでふざけ廻って、馬の尻っ尾を引っ張ったり、駱駝と白眼にらめくらをしたり、自分の鼻の孔へ指を入れてくさめをするやら、もんどりを打つやら
下人は、大きなくさめをして、それから、大儀さうに立上つた。夕冷ゆふひえのする京都は、もう火桶ひをけが欲しい程の寒さである。風は門のはしらと柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
例えば茶柱が来客を代表したり、くさめが人のうわさを代表したりするようなものであります。これは偶然の約束から成立した象徴でありますから、ここに云う種類には属しない訳であります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
式台は悪冷わるつめたく外套を脱ぐとくさめが出そうなのに御内証ごないしょう煖炉だんろのぬくもりにエヘンとも言わず、……蒔絵の名札受なふだうけが出ているのとはと勝手が違うようだから——私ども夫婦と、もう一人の若い方
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寒風身にしみてくさめをし、気がついたらうたた寝をしていたなどというのでは困るが、とにかくアイスアックスは、我をして山を思わしめ、山を思えば私はアイスアックスを取り出して愛撫する。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
居候いそうろうなりとはいえ、今を時めくABCDS株式国家のC支店長の号令である。それにおどろいて医師は診察鞄をそこに忘れて立ち上ると、部屋附のボーイは、出かかったくさめを途中で停めて部屋を出た。
朝日の光秋の如く隣家に人のくさめする聲も聞ゆ。午後中河與一氏來話。
荷風戦後日歴 第一 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
何かいたずらをしてくさめでもさせてやりたいような気持になった。
墓地裏を肥桶載せてゆく駄馬のくさめ大きなりまめんぶしの花
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
どうしたんだ、どうしてそんなにくさめをするんだ
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
時あつて、猛烈可笑をかしいくさめも出れば
吉里は二ツ三ツ続けてくさめをした。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「四遍も見ると、くさめが出る」
泥棒のくさめも寒し雪の夜半よわ
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
厨房だいどころるものでくさめをしないのはたゞ料理人クツクと、それからへツつひうへすわつて、みゝからみゝまでけたおほきなくちいて、露出むきだしてた一ぴき大猫おほねこばかりでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そで履物はきものも夜露にぬれ、筒井はちいさいくさめをしたほどだった。彼らはやっとけた星を見上げた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一息にここまでまくし立てると、あとが続かなくなつたのと、葉巻シガーけぶりが咽喉に入つたのとで、大森氏は一寸言葉を切つて、大きなくさめをした。そして苦しさうに涙を目に一杯溜めて
お前達船酔いしそうになったらな、みんな取っ組み合って腕角力するんだぞう。すると血が顔に上って船酔いしねえそうだ。億劫おっくうだったら、そうだな、より紙でもこさえて鼻穴をつついてくさめ
親方コブセ (新字新仮名) / 金史良(著)
シャヴァンヌのサン・ジュヌヴィエヴのごとく、月の光に照らされた瓦屋根を眺めて立っていたが、やがてくさめを一つすると、窓の障子をばたりとしめて、また元の机のきわへ横坐りに坐ってしまった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あんまり早過ぎたので、動物の方を見物に廻った。パンに唐辛とうがらしを入れて猿に喰わせたら、くさめをして可笑おかしかった。もう少しやろうとしていると、番人が来て大変怒ったから、乃公達は象の方へ行った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
生きた人形でも買ってもらったように喜んで、ひまさえあると、新らしいいもとそばに寄りたがった。その妹のまたたき一つさえ驚嘆の種になる彼らには、くさめでもあくびでも何でもかでも不可思議な現象と見えた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ハ、ハッショイ。——」と、そのとき突然大きなくさめの音がした。
空気男 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
『まァ、澤山たくさん胡椒こせうはいつてること、肉汁スープなかに!』あいちやんはひながら大變たいへんくさめをしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と、いつたが、鷦鷯はその魂に沁み透る孤寂が何よりも好物で、「自然」がくさめ一つしても、けし飛んで無くなりさうな小さな体で、絶えず寂をもとめて、陰湿な物蔭を物蔭をと捜し歩いてゐる。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
一度この弟子の代りをした中童子ちゅうどうじが、くさめをした拍子に手がふるえて、鼻をかゆの中へ落した話は、当時京都まで喧伝けんでんされた。——けれどもこれは内供にとって、決して鼻を苦に病んだおもな理由ではない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もしか同じ問が紐育ニユーヨークの新聞記者からでも訊かれたのだつたら、ロツクフエラアは急に感冒かぜをひいたやうな顔をして、大きなくさめでもしたのだらうが、相手が可愛かあいらしい子供だけに、にこ/\して
小僧は首を縮めるが早いか、つづけさまに大きいくさめをした。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
胡散うさんさうな顔でもすると、直入は急に風邪でも引いたやうにくさめをして