あた)” の例文
「いえ、けっして何も、旦那、ただ顔をあたりにまいります途中で、河の流れが早いかどうかと、ちょっとのぞいてみましただけで。」
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
お偉がたにしてみればそれが頭痛の種でしてね、ですからお顔のあたり方、おぐしの作り方が、それはそれは大事な役目だったわけです。
平次は月代さかやきあたつて貰ひ乍ら、振り向いて見ようともしません。尤も剃刀かみそりを持つて居るのは、片襷かただすきを掛けた戀女房のお靜。
四丁目の角におふくろと二人でしじみかきいています、お福ッて、ちょいとぼッとりしたはまぐりがね、顔なんぞあたりに行ったのが、どうした拍子か
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
市村羽左衛門の登場——はいいが、なるほど今まで「あた」っていたらしく、しきりにあごのあたりを気にして拭いている。
そして庸三が一風呂つかって、顔をあたっていると、そこへ小夜子も入って来た。男を扱いつけている彼女にとって、それは一緒にタキシイに乗るのと何のかわりもなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
当時とうじ江戸えど名高なだけ笠森かさもりおせんの、えりあたるなァおいらよりほかにゃ、ひろ江戸中えどじゅう二人ふたりたねえんだ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
奥を覗くと、ちょうど茶店の亭主が髯をあたっている様子、新九郎は頷いて小腰をかがめた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう久しくあたってない鳩羽色の、まず牛蒡ごぼうといった感じの二重顎にも、飛びだした眼にも、息ぎれの様子にも、不細工な無精たらしい姿全体にも、声音にも笑いごえにも言葉にも
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
(此日には源助さんが白井様へ上つて、お家中うちぢゆうの人の髪を刈つたり顔をあたつたりするので、)大抵村の人が三人四人、源助さんのとこたばこふかしながら世間話をしてゐぬ事はなかつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ジャイ、ジャイとあたりながらも、京弥の目はたえず十人の身辺へそそがれました。
彼はその鼻が、誰あろう、毎週水曜と日曜とに自分に顔をあたらせる八等官コワリョーフ氏のものであることに気がついたのである。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
死のうとした日の朝——宗吉は、年紀上としうえかれの友達に、顔をあたってもらった。……その、明神の境内で、アワヤ咽喉のんどに擬したのはその剃刀であるが。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを解けるのが、——いつぞや平次が女房のお靜にひげあたらせて居るのを見た、ガラツ八だけかもわかりません。
京弥もまた月代をあたりながら油断がないのです。
ちょうどその日が日曜に当っていたのである——それから頬が本物の繻子しゅすのようにすべすべして光沢つやの出るまで丹念に顔をあた
インキのつぼを、ふらここのごとくにつて、金釦きんぼたんにひしやげた角帽かくばう、かまひつけぬふうで、薄髯うすひげあたらず遣放やりつぱなしな、威勢ゐせいい、大學生だいがくせいがづか/\とはひつてた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あたつた後で顏を洗つて、綺麗に拭き取ると、煙管きせるを伸ばして、縁側の日向へ煙草盆を引寄せます。
やおら顔をあたりにかかった、これは併し、もうずっと前から必要に迫られていたことで、手をちょっと顎に触れながら鏡を一目見るなり、彼は
萬兵衞は通人らしくたしなみの良い男で、外出でも思ひ立つて、髯をあたりに入つたところを、後ろから忍び寄つた曲者に、逆手さかてに持つた剃刀で右の頸筋をやられたのでせう。
愁眉しうびすなはまゆつくること町内ちやうない若旦那わかだんなごとく、ほそあたりつけて、まがすくむをふ。泣粧きふしやうしたにのみうす白粉おしろい一刷ひとはけして、ぐいとぬぐく。さまなみだにうるむがごとし。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ねえ、旦那、何なら一週に二度、いや三度でも、旦那のお顔を無料ただあたらせていただきたいと思っておりますんで。」
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
万兵衛は通人らしくたしなみの良い男で、外出でも思い立って、髯をあたりに入ったところを、後ろから忍び寄った曲者に、逆手さかてに持った剃刀で右の頸筋をやられたのでしょう。
女郎屋の朝の居残りに遊女おんなどもの顔をあたって、虎口ここうのがれた床屋がある。——それから見れば、旅籠屋や、温泉宿で、上手な仕立は重宝ちょうほうで、六の名はしち同然、融通ゆうずうは利き過ぎる。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼にはその顔が頗る自慢で、中でも顎が一番チャーミングだと思っているらしく、よく友達の前などで、殊に髭でもあたっているような時には、手ばなしで惚気たものだ。
「ヘエ、三日前でございました。こんな騒ぎがなければ、今日はあたるはずでしたが——」
そこで、おわびに、一つ貴女の顔をあたらして頂きやしょう。いえ、自慢じゃありませんがね、昨夜ゆうべッから申す通り、野郎図体ずうたいは不器用でも、勝奴かつやっこぐらいにゃたしかに使えます。剃刀かみそりを持たしちゃたしかです。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや姐御あねごつて言ふんだつけ——、親分の顏をあたるのはよいが、右から左からいゝ男つ振りを眺めてばかり居ちや、り上げないうちに、後から/\生揃はえそろつて來ますぜ、へツへツへツ
「へエ、三日前で御座いました。こんな騷ぎが無ければ、今日はあたる筈でしたが——」
「手前、浜町まで顔をあたりに行くのかい」
「手前、濱町まで顏をあたりに行くのかい」
「お前さん、いつ髯をあたりなすったえ」
「お前さん、何時髯をあたりなすつたえ」
「シツ、默つて居ろ、——これは御用聞の仁義さ。尤も、穴の中で縛られて居た手前も、あまりいゝ器量ぢやないぞ、——耻はお互ひだ——それより今日は永井鐵三郎樣家督相續のお祝に招ばれて居るんだぜ、ひげでもあたつて來い」
「シッ、黙っていろ、——これは御用聞の仁義さ。もっとも、穴の中で縛られていた手前も、あまりいい器量じゃないそ、——恥はお互いだ——それより今日は永井鉄三郎様家督相続のお祝いにばれているんだぜ、ひげでもあたって来い」