分娩ぶんべん)” の例文
………四十五歳トイウ年齢ニ達スルマデ、ソノ間ニハ女児ヲ一人分娩ぶんべんシナガラヨクモソノ皮膚ニ少シノきずモシミモ附ケズニ来タモノヨ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
分娩ぶんべんの日の輝かしい光栄を苦痛であがなう女のうちに、人知れず身を犠牲にしてだれからも知られていない者のうちに、無限なるものがある。
分娩ぶんべんすると同時に、又もいつの苦悶は出できたりぬ。そは重井おもゐと公然の夫婦ならねば、の籍をば如何いかにせんとの事なりき。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
痙攣けいれんと努力とを交じえた社会的産褥さんじょくと革命的分娩ぶんべんとの偉大な時間を、そのありのままの正確な浮き彫りで読者に見せることができないだろう。
それに少し遅れて第二女の縁付先から無恙つゝがなく男子分娩ぶんべんといふ手紙を受取つた。この二ツの出来事の外はこれと云ふ程の事も無くてこの冬は過ぎた。
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
畳がまさに汚濁せる潮水のために浸ろうとする時、まさにその時期にかっきり達している彼の妻君は、生理上の法則に従って、赤ん坊を分娩ぶんべんした。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
妊婦にんぷが早過ぎた埋葬にって、墓場の中で生き返り、生き返ったばかりか、その暗闇の中で分娩ぶんべんして、泣きわめく嬰児えいじいだいてもだえ死んだ話などは
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
年歯としを取ってからの初産ういざんだったので、当人もはたのものも大分だいぶ心配した割に、それほどの危険もなく胎児を分娩ぶんべんしたが、その子はすぐ死んでしまった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしいよいよ分娩ぶんべんしてみると、子供の顔が博士の顔にそっくりなのです。わたしは産褥さんじょくであの子の顔を見たときはっと思った瞬間に気を失ったのでした。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
その年の秋友子は男の子を産んだ。分娩ぶんべんの一瞬、豹一が今まで嫌悪してきたことが結局この一瞬のために美しく用意されていたのかと、何か救われるように思った。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
その大要のみを挙げると、この家の女房三度まで異物を分娩ぶんべんし四番目に産んだのがこの鬼子であった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
つまり分娩ぶんべんとか掻爬そうはとかの、苦痛や惨忍性を伴ふ場合がそれであつて、この時は手術台なり分娩台なりを、到底肉眼の堪へぬほど強烈な白熱光をもつて包むのである。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
それから普通の期間を過ぎて葉子は木部の子を分娩ぶんべんしたが、もとよりその事を木部に知らせなかったばかりでなく、母にさえある他の男によって生んだ子だと告白した。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
前途がどう展開てんかいするかも知れず、分娩ぶんべんの時期が後れるかも知れず、私が果して生きぬくかにも不安があるので、「オボエアリ」との保証ほしょうを得るにも心もとないのであった。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
母体が肺結核はいけっかくとか慢性腎臓炎まんせいじんぞうえんであるとかで、胎児たいじの成長や分娩ぶんべんやが、母体の生命をおびやかすような場合とか、母体が悪質の遺伝病を持っている場合とかに始めて人工流産をすることが
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
皇太子妃殿下節子姫さだこひめには去る二十九日、新たに親王殿下をやすやすとご分娩ぶんべんあそばされました。これは皆さんも新聞紙上でお父様やお母様からすでにお聞きなされたことと存じます。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いまだ分娩ぶんべんをおえざるさきに死去したるに、この女房は生前、松井に内々にて愛国生命保険会社と千円の保険契約をなしおりしかば、松井は妻の死後、あたかも拾い物したる思いにて
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
なんじいかに奇矯の言をなして婦人の天職を皆無に帰せしめんと欲するも、妊娠、分娩ぶんべん、育児のことに至っては、ついにこれを婦人の天職にあらずと言うをえざらんと。いかにもしかり。
婦人の天職 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
納戸なんどのすみの薄暗い所へいつかの行李こうりを置いてその中に寝かせ、そしてそろそろ腹をなでてやるとはげしく咽喉のどを鳴らして喜んだそうである、そしてまもなく安々と四匹の子猫を分娩ぶんべんした。
子猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四月二日朝、おせいは小石川のある産科院で死児を分娩ぶんべんした。それに立合った時の感想はここに書きたくない。やはり、どこまでも救われない自我的な自分であることだけが、痛感された。
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
皇帝アウグストの時戸口調査の命令が出て、ヨセフは戸籍登録を受けるため、妊娠中の妻マリヤをたずさえて、己が本籍地であるユダヤのベツレヘムに行き、そこでマリヤは男児を分娩ぶんべんした。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
槇氏の長女は避難先で分娩ぶんべんすると、急に変調を来たし、輸血の針跡から化膿かのうしてついに助からなかった。流川町ながれかわちょうの槇氏も、これは主人は出征中で不在だったが、夫人と子供の行方が分らなかった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
十五日 朝根室分娩ぶんべん牡犢おすこうしである。例によって母牛にせずしてこうしを遠く移した 母牛は壮健である。杉山発情午後交尾さした。アンヤ陰部より出血 十三日頃発情したのであるを見損じたのである。
牛舎の日記 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
最早や分娩ぶんべん期が迫って胎児が骨盤に下りて来ている今日では、いかんともし難い、と云うことなのであるが、でも院長先生は
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さては一大事、医師の診察によりて、分娩ぶんべんの事発覚はつかくせば、せふは兎も角、折角おこたりたる母上の病気の、又はそれが為めにつのり行きて、ゆとも及ばざる事ともならん。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
そうして今まで我慢に我慢を重ねてこらえて来たような叫び声を一度に揚げると共に胎児を分娩ぶんべんした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが産院の方は本館づとめとは違つて色々と雑用が多く、受持も育児室から産室、それから分娩ぶんべん室といふ工合ぐあいにぐるぐる廻るものですから、外出の機会がなかなかありません。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
診察のときには、いつもついたての外に看護婦をつけておくのがここのきまりなんですけれどね、とにかく、とうとうその夫人が妊娠して、三ヶ月ばかり前に分娩ぶんべんしたのよ。しかもこの病院で
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そのうちに一同が帰宅して留守中に起こった非常な事件に関する私からの報告を聞いているうちに、三毛はまた第二第三の分娩ぶんべんを始めた。私はもうすべての始末を妻に託して二階にあがった。
子猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夜の一時ごろにしかも軽く分娩ぶんべんして、赤子あかごは普通より達者である。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
れど今回の分娩ぶんべんは両親に報じやらざりし事なれば今更にそれぞとも言ひ分けがたく、殊には母上の病気とあるに、いか余所よそにやは見過みすごすべき、し途中にて死なば死ね
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
その地で分娩ぶんべんさせること、———その期間中は絶対に男との交通を禁止し、一切此方の費用と監督の下に置くこと、そうして置いて一方では今度の雪子の縁談を急速に進行させ
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかるに分娩ぶんべんの際は非常なる難産にして苦悶二昼夜にわたり、医師の手術によらずば、分娩覚束おぼつかなしなど人々立ち騒げる折しも、あたかも陣痛起りて、それと同時に大雨たいうしのを乱しかけ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ちなみに云う春琴と佐助との間には前記の外に二男一女があり女児は分娩ぶんべん後に死し男児は二人共赤子の時に河内かわちの農家へもらわれたが春琴の死後もわすれ形見には未練がないらしく取り戻そうともしなかったし子供も盲人の実父のもとへ帰るのを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二 分娩ぶんべん、奇夢
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)