ただし)” の例文
されどこの歌を以てただちに「歌にあらず」(厳格なる意味の)とはなさず。ただしこの歌が幾分か歌ならざる方に近づきをるは論をたず。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
……ただし新聞社には遺憾なく手を廻わしたものと見えて、一行も書かなかった。だから結局、死んだ奴が死に損という事になった訳だ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただし、皇兄早良サハラ太子の轍を踏んで、平安の新京を棄てゝ、奈良の旧都に復しようとして、失敗せられたのが、薬子・仲成の乱である。
万葉集のなり立ち (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
一茶調の先蹤せんしょうをなすことは、野紅の名誉ではないかも知れぬ。ただし一茶としてはどうしても野紅に功を譲らなければなるまいと思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ただし、これは、英国の方から、それらの国々へ、押売りをした後詰めの兵で、頼まれたから、義侠心で出した後詰めの兵ではない。
今昔茶話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ロオラや」という気取った声をする夫人はきっと未亡人などではありますまい。ただし、その人の夫はきっとふだんは家にいない人なのです。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
ただし十年の計画を二年につづめたるため(名は二年なるも出版の際修正に費やしたる時間を除いて実際に使用せるは二夏ふたなつなり)
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ただしこの遺精の語義、果して当代に用ふる所のものと同じきや否やをつまびらかにせず。識者の示教しけうを得ば幸甚かうじんなり。(四月十六日)
ただし御身おんみつつがなきやう、わらはが手はいつも銃の口に、と心をめた手紙を添へて、両三にち以前に御使者ごししゃ到来。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ただし景鶴山は上州戸倉の称呼で、書上には形状鶴のたたずむが如しとあって、あたかも形によって名付けたように書いてあるが、『藤原温泉記行』には平鶴山となっている。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
抽斎は百尺竿頭ひゃくせきかんとう更に一歩を進めてこういっている。「ただし論語の内には取捨すべき所あり。王充おうじゅうしょ問孔篇もんこうへん及迷庵師の論語数条を論じたる書あり。皆参考すべし」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大平おほひら(くわい。しひたけ。ゆづ)。汁(とうふ。ふのり)。茶くわし(せんべい)。引くわし(うんどん五わただし四十めたば。まんぢゆう七つただし一つに付四厘づつ)
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
さては客来きやくらいと言ひしもいつはりにて、あるひは内縁の妻と定れる身の、吾をとがめて邪魔立せんとか、ただし彼人かのひとのこれ見よとてここに引出ひきいだせしかと、今更にたがはざりし父がことばを思ひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
天下の勢を有つ者も朕なり、の富勢を以て此の尊像を造ること、事成りやすくして、心至り難し、ただし恐らくは徒らに人を労する有りてく聖を感ずる無く、或は誹謗ひぼうを生じ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ただし、彼には永年多くの種類の人間との接触から得た経験的智識があり、それと練磨した現実を見破る犀利さいりな眼光が備えられていて、客から与えられる話題のテーマに就て底の底を語り
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
明後日は会社の臨時総会にて残念ながら半輪亭はんりんていのけいこ休みと致候。ただし当月中には是非とも「口舌八景」上げたきつもり貴処もせいぜい御勉強のほど願はしくお花半七掛合かけあい今より楽しみに致をり候
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ただし酒徒也
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
ただし……ここでチョットお断りしておきたいのは、この時までAが、私に対して、別段に、深刻な野心を持っていなかった事です。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただし世人はゆるく歌ふを指して歌ふといひ、詩想複雑にして音調また変化するを指して思を主とすといふにやあらん。(五月三日)
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ただし里東のこの句は西鶴の書いたような、船著の光景ではなさそうである。農家の庭などにこぼれた米を雞が啄んでいる、しずかな趣であろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ただし、万一しるし洩れも有之候節は、後日再応さいおう書面を以て言上仕る可く、まづは私覚え書斯くの如くに御座候。以上
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それで覚えているのです。だが短い人生の中で、二度まで婦人に褒められたら、もう本望じゃあありませんか。ただしあくどい自惚家うぬぼれやは、毎日婦人に褒められないと、気色が勝れないようですね。
御存与太話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただし、このさきわたしを一つ越さねばならぬで、渡守わたしもり咎立とがめだてをすると面倒じゃ、さあ、おぶされ、と言うて背中を向けたから、合羽かっぱまたぐ、足を向うへ取って、さる背負おんぶ、高く肩車に乗せたですな。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が仲に立つ旨を云いると、店員からは案外喜んだ承諾の返事が来て、ただし、いま船は暹羅シャムの塩魚を蘭領印度らんりょうインドに運ぶために船をチャーターされているから、船も帰せないし、自分も脱けられない。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
従つて、傍丘を或はもとほりの丘辺など言ふ語でうつすことはいけないので、地名にあるものは、ただし此とは別である。かういふ言葉が文献時代になつても、散列層のやうにはさまつて残つて居るのである。
ただし安気は安喜と書いたものもあるからアンキと読むのであろうか。
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
殊に「女は不正なるべし、ただし処女に限る」とか、「不良病ますますおもる」とかいうあたり、冗談かも知れぬが舌を捲かざるを得ない。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
雑誌『目不酔草めざましぐさ』の表紙模様不折ふせつの意匠に成る。面白し。ただし何にでも梅の花や桜の花をくつつけるは不折の癖と知るべし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ただし橋に出たのは蛍狩の目的でないので、偶然そこへ来たら川風が涼しいため、蛍籠を橋の上に置いて暫く佇んでいるものとすればいいのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ただし、当局はその真相を疑い、目下犯人厳探中の由なれども、諸城しょじょう某甲ぼうこうが首の落ちたる事は、載せて聊斎志異りょうさいしいにもあれば、がい何小二の如きも、その事なしとは云うべからざるか。云々。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただし、かういふ歌は、作られた場合と、其が伝誦せられた道筋がわからない。さう言ふ歌が沢山ある。其情熱は、けれども、劇的のものであり、背景をなす生活状態に、戯曲風の感動を導くものです。
古代生活に見えた恋愛 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
ただし海の方は暗いので翌日の天気が心配になった。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
……ただし、こんな年齢の推定材料の切抜記事は、常識的に考えると、呉一郎が私生児だから、特に念のために挿入したものと考えられるかも知れぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただし和歌俳句の如き短き者には主観的佳句よりも客観的佳句多しと信じをり候へば、客観に重きを置くといふも此処ここの事を意味すると見れば差支さしつかえ無之候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さては此女房の美しいに思ひつきて、我より二つ四つも年のいたをもたれしか、ただし入りむこか、(中略)と亭主ていしゆふところにはいればそのままたましひ入れ替り、(中略)さあ夢さましてもてなしやと云へば
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ただし、虫麻呂と福麻呂二人共名を記さないのは、どう言ふわけか。
万葉集研究 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
ただし和歌俳句のごとき短きものには主観的佳句よりも客観的佳句多しと信じおり候えば、客観に重きをおくというもここのことを意味すると見れば差支さしつかえ無之候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ただし、それは胎児自身が記録した事実でもなければ、大人の記録に残っている事でもないので、いわば一つの推測に過ぎない。だから学術上の価値は認められない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「打たば打て。取らば取れ。ただし、天上皇帝の御罰は立ち所に下ろうぞよ。」と、嘲笑あざわらうような声を出しますと、その時胸に下っていた十文字の護符が日を受けて、まぶしくきらりと光ると同時に
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
書家は数多く、書はれんにして得やすきに因るといへどもまた画を解せざるに因るなり。ただし家屋器具全く装飾なき処には濃厚の画の調和せざる、また一因なり。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ただし、儀作は、最初の場面に現われた時よりも一畝ひとうねほど余計に畠を作っているが、かたわらに居るせた少女も、その半分の処まで、枯れ枝や瓦の破片かけらを植えつけている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
第三基より本基ホームベースに回る時もまたしかり。ただし第三基は第二基よりも攫者に近く本基は第三基よりも獲者に近きをもって通過せんとするには次第に危険を増すべし。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ただし、子供はビックリ太郎でもノラクロ伍長でも容易に釣込まれるんだが、大人はそうは行かない。
探偵小説の正体 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「空に知られぬ雪」とは駄洒落にて候。「人はいさ心もしらず」とは浅はかなる言ひざまと存候。ただし貫之は始めて箇様かような事を申候者にて古人の糟粕にては無之候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ただし、ことがあるだけで、結局、製造の手段が以前よりも巧妙になっただけに止まった。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ただし宗武の方、覇気やや強きが如し。曙覧は見識の進歩的なる処、元義の保守的なるに勝れりとせんか、但伎倆の点において調子を解する点において曙覧は遂に元義に如かず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ただし、文芸通信誌上で私は「探偵小説が文芸であるかどうかは責任を負う限りでない」
甲賀三郎氏に答う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただし歌ふ調子は古と今と異なるべし、同時代にても人によりて異なるべし。(調子の事は他日詳論すべし)また万葉は調または言葉を主とし、後世の歌は想を主とすといへるも間違なり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
……ただし……その途中で二発ばかり、軽い、遠い銃声らしいものが森の方向から聞こえましたから、私は思わず頭をもたげて、恐る恐る見まわしましたが、やはり四方あたりには何の物影も動かず
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
また鉢についても必ずしもよき鉢には限り申間敷、あるいは瓦鉢かわらばちあるいは摺鉢すりばちその他古桶などを利用致したるも雅味深かるべく候。ただし画をかきある鉢は如何なる場合にもよろしからずと存候。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)