不沙汰ぶさた)” の例文
不沙汰ぶさた見舞に来ていたろう。このばばあは、よそへ嫁附かたづいて今は産んだせがれにかかっているはず。忰というのも、煙管きせるかんざし、同じ事をぎょうとする。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
考えてみると四十日余りの不沙汰ぶさただ。開封かいほう東京とうけいといっては早くても二ヵ月余、もし天候にめぐまれなければ三月みつきは旅の空になる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
壽阿彌は怪我の話をして、其末には不沙汰ぶさた詫言わびことを繰り返してゐる。「怪我かた/″\」で疎遠に過したと云ふのである。此詫言に又今一つの詫言が重ねてある。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
私たちは死神にいいように料理されてる病人をとりまいてしんから手もち不沙汰ぶさたに控えている。私は自分をはじめ人たちを見まわして思わずふきだしそうになった。
妹の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
と負け惜しみのやうなことを云ひながら、手持ち不沙汰ぶさたにそれを巻き納めて部屋を出て行くのだつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
訊ねてもどこにいるのか、少しもくわしいことを知らないものですから、一向不沙汰ぶさたをしていました
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
手持不沙汰ぶさたなままに、金ピカ葬儀車のすぐうしろにたたずんで、見るともなくその観音開きの扉を眺めていたが、やがて、何を見つけたのか、博士の顔がにわかに緊張の色をたたえ
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手持不沙汰ぶさたでゐるわたしを
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と言うのは、このごろ忙しさに、不沙汰ぶさたはしているが、知己ちかづきも知己、しかもその婚礼の席につらなった、従弟いとこの細君にそっくりで。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親戚しんせきという名につながっていても、平常いつもはめったに顔を見せない不沙汰ぶさた者までが、今夜は一堂に寄ったのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それへ久しぶりで不沙汰ぶさた見舞に参りますと、狭い処へ一晩泊めてくれまして、翌日あくるひおひる過ぎ帰りがけに、貴方、納屋のわきにございます、柿を取って
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
からっとよく晴れた昼間ほど、手持ち不沙汰ぶさたにひっそりしている色街いろまちであった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牛込うしごめはうへは、隨分ずゐぶんしばらく不沙汰ぶさたをしてた。しばらくとふが幾年いくねんかにる。このあひだ、水上みなかみさんにさそはれて、神樂坂かぐらざか川鐵かはてつ鳥屋とりや)へ、晩御飯ばんごはんべに出向でむいた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おやおやとの許嫁いひなづけでも、十年じふねんちか雙方さうはう不沙汰ぶさたると、一寸ちよつと樣子やうすわかかねる。いはん叔父をぢをひとで腰掛こしかけた團子屋だんごやであるから、本郷ほんがうんで藤村ふぢむら買物かひものをするやうなわけにはゆかぬ。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「御免をこうむれ、行儀も作法も云っちゃおられん、遠慮は不沙汰ぶさただ。源助、当れ。」
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こけに惑い、露にすべって、樹島がややあわただしかったのは、余り身軽に和尚どのが、すぐに先へ立って出られたので、十八九年不沙汰ぶさたした、塔婆の中の草径くさみちを、志す石碑に迷ったからであった。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼の内は宰八なり、誰か、時々お伺いはいたしますが、この頃は気怯きおくれがして、それさえ不沙汰ぶさたがちじゃに因って、私によくお見舞い申してくれ、と云う、くれぐれもそのことづけでございました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠慮は不沙汰ぶさた、いや、しからば、よいとまかせのやっとこな。(と云って立つ。村越に続いて一室ひとまらんとして、床の間の菊を見る)や、や、これは潔くさわやかじゃ。御主人の気象によく似ておる。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おまゐりをしてくださいなと、なにかのときに、不思議ふしぎにめぐりつて、その養女やうぢよからいはれたんですが、ついそれなりに不沙汰ぶさたでゐますうちに、あの震災しんさいで……養女やうぢよはうも、まるきし行衞ゆくへわかりません。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)