飯櫃おひつ)” の例文
ところが、朝食の膳に向って、一人でちびちび、苦い味を我慢して飲み初めると、母は飯櫃おひつの横に控えて、じっと僕の方を見守ってきた。
不肖の兄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
素足に藁草履をバタ/\さして、芋の蔓のやうに曲りくねつた細い野路を、妻が被つた手拭もらずに、風呂敷に包んだ飯櫃おひつを提げて急いで來た。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
もう昼飯がすんだあとらしく、ちゃぶ台の上には薬罐やかん飯櫃おひつだけが残されていて、蠅が五、六匹しずかにとまっている。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
入口の土間にはバケツや漬物桶つけものおけやかめなどがごたごたと置かれ、部屋の棚には洗った飯櫃おひつや箱や新聞で包んだいろいろなものが一ぱい載せられていた。
同時に膳部ぜんぶの仕度の音、薬鑵やかん飯櫃おひつの音。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
干された飯櫃おひつがよく乾き
別離 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
「今時分そんなこと言うて來たかて、御膳もあれへんがな。……お梅、其の飯櫃おひつ持つて來て見い。」
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
茶碗と飯櫃おひつの音。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分は下女のお駒に箸と茶碗と飯櫃おひつとを持つて來させて、酒臭い座敷で手盛の飯を喰べた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)