間切まぎ)” の例文
「この船はほとんど風上に間切まぎっても進めますな。女房にだってこれほど言うことをきかせる訳にはゆきますまいよ。しかし、」
サンチャゴが勢よく走りだすと、向うの黒船もにわかに船足を早め、海の上を電光形に間切まぎりながら、サンチャゴのほうへ突っかけてくる。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
航海にはしばしば順風の便ありといえども、人事においてはけっしてこれなし。人事の進歩して真理に達するの路は、ただ異説争論の際に間切まぎるの一法あるのみ。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
唯女を買っただけでは気の済む訳がないのだ。私には一人楽みが出来なければ寂しいのも間切まぎれない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
この風を間切まぎって呼子よぶこへ廻わってんか。途中でインチキの小判と気が付いて引返やいて来よったらかなわん。和蘭陀オランダ船は向い風でも構いよらんけに……呼子まで百両出す。百両……なあ。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
風を利用して、鱏の群のすこし前で、右から左へ急に間切まぎってやろうと思ったのです。
手紙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
取留めもなく、唯自家で沈み込んでいた時分には、何うかして心の間切まぎれるように好きな女でも見付かったならば、意気も揚るであろう。そうしたら自然に読み書きをする気にもなるだろう。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)