螻蛄けら)” の例文
やつと口説き落して、家来が剃刀を持つて後に立つと、気むづかしやの殿様は螻蛄けらのやうに頭を振つてどうしても剃らさうとしなかつた。
茶話:12 初出未詳 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
それともてめえのは口先学問で、実際になっちゃあ能なしだというならば、相手にとって不足だから土間に手をついて謝ってしまえ、お螻蛄けらだと思って勘弁してやるから
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、死といえば蟻、螻蛄けら羽虫はむしになっても縷々るると転生してしまう暢気極まる死です。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
廬陵ろりょうの太守龐企ろうきの家では螻蛄けらを祭ることになっている。
後になつてそれは蚯蚓の坑道に紛れ込んだ碌でなしの螻蛄けらのいたづらだといふことを教へられて、私達の周囲から天成の歌よみを一人奪はれたやうな思ひをさせられたことがあつた。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
蚯蚓が詩人と間違えられたのは、たまさかその巣に潜り込んで鳴いている螻蛄けらのせいで、地下労働者の蚯蚓は決して歌をうたおうとしない。黙りこくってせっせと地を掘るのが彼の仕事である。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)