色相しきそう)” の例文
散るも咲くも、死ぬも生まるるも、ふかく観じてみれば、宇宙一円の中の、春秋の色相しきそうのみ。……おもしろの世かな。さようにも思われます。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金屏きんびょうを背に、銀燭ぎんしょくを前に、春の宵の一刻を千金と、さざめき暮らしてこそしかるべきこのよそおいの、いと景色けしきもなく、争う様子も見えず、色相しきそう世界から薄れて行くのは
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世のあらゆる音騒おんそう色相しきそうをあたかも春秋の移りのように諦観しきっているのだろうか、子の十内と、孫の幸右衛門のあいだに、ちょこなんと低く坐って、うす眼をふさいでいた。
小野さんは色相しきそう世界に住する男である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目に見えないほどずつ、陽が沈み、雲の色相しきそうが、変ってゆくだけだ。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)