癈人はいじん)” の例文
どんな病氣か知りませんが、ほとんど癈人はいじんと言つてよく、床に就いたつきりで、何を訊ねても、はつきりした答はありません。
こんな事をして暮して、いったい僕はこれから、どんな身の上になるのだろう。なんの事はない、てもなく癈人はいじんじゃないか。そう思うと、呆然ぼうぜんとする。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ソレドコロカ単独デ外出スルヿモ、人ト応対スルヿモ不可能ニナリ、結局癈人はいじんニナッテシマウノデハナイカ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
神経衰弱となり、にわかに顔までゲッソリやつれ、癈人はいじんの如くに病み衰えてしまった。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いまに、ここから出ても、自分はやっぱり狂人、いや、癈人はいじんという刻印を額に打たれる事でしょう。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とりは以ての外の顏をするのです。先妻のお艶が死んでしまひ、越後屋の主人金兵衞が癈人はいじんとなつてしまつた今となつては、この厄介な事件の、奧の奧をさぐる工夫もありません。
ほとんどうようにして栃木県の生家にたどりつき、それから三箇月間も、父母の膝下しっかでただぼんやり癈人はいじんみたいな生活をして、そのうちに東京の、学生時代からの文学の友だちで
女類 (新字新仮名) / 太宰治(著)