さきにちよツと直接に交渉があつた男生徒が、お鳥の兄(由仁にゐる)にも交渉したら、本人さへよければとの返事だ。
「それなら、それで止むを得なかつたのだらう。」義雄はお鳥の兄のゐる由仁を汽車でとほつたことを思ひ出した。
由仁にゐる兄の勸めか、命令かにより、柔術を習ひに行つたこと——祭禮のあつた時、藝者の子と一緒に揃ひの衣物で踊つたこと——小學校の往きや歸りにいたづらをする男の兒を
再び汽車に乘つて、稻穗のよく實る水田が廣がつてゐる栗山や由仁を通過する時、義雄は一種のおそろしみを感じた。ほかでもない、この邊にお鳥の實兄が刑事探偵をしてゐるのである。
由仁へ行つたお鳥のことが思ひ出されて、なかなか段落が進まない。