甘味かんみ)” の例文
此れ便すなはち先考来青らいせい山人往年滬上こじやうより携へ帰られし江南の一奇花きくわ、わが初夏の清風に乗じて盛に甘味かんみを帯びたる香気を放てるなり。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
水氣すゐきあるがごとく無きがごとく、甘味かんみあるがごとくなきが如くたべてもせい/″\一つか二つ位ゐのところ、甘柿の味はまつたく初秋のものである。
たべものの木 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
家の周囲は幾反かの広い畑で、柿の樹が二十本あまりも高々と茂っていて、その大部分は伽羅柿きゃらがきと呼ぶ甘味かんみ多漿たしょうの、しかも大果だいか豊生ほうしょうの樹であった。
かき・みかん・かに (新字新仮名) / 中島哀浪(著)
入りつ出でつゆらめく男女の影は放蕩の花園にたはむれ舞ふ蝶に似て、折々流れきたる其等の人の笑ふ声語る声は、云難いひがた甘味かんみを含む誘惑の音楽に候はずや。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
何故なにゆゑに禁じられたる果実は味うるはしく候ふや。禁制は甘味かんみを添へ、破戒は香気を増す。谷川の流れを見給へ。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)