猪牙船ちょき)” の例文
と、猪牙船ちょきの中の人影が、黒頭巾の半身を伸ばして、向うから流れて来る苫舟の上を、じっと見つめている様子でした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船のつけてあるところは、三河様よりこっちよりの細川邸の清正公様せいしょうこうさまのそとのところだった。夕潮が猪牙船ちょきの横っぱらをザブンザブンとゆすっていた。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
猪牙船ちょきがそのお茶の水の真ッ暗な水上をすべって行くと、寝ていた黒い頭巾の男は、やおら掻巻かいまきねのけて、ふッ……とみよし舟行燈ふなあんどんを吹き消しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、その猪牙船ちょきは柳原の土手の間を漕ぎのぼって、やがて紅梅河岸こうばいがしまで来ましたが、そこで岸へ寄せる様子もなく、なおグイグイと漕ぎ進めてまいります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)