牴牾もどか)” の例文
黄昏たそがれに似た薄暗さの底に、三人はしばらくプログラムを見ていたが、葉子は中に庸太郎という隔てのあるのを牴牾もどかしがるようなふうもしていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして、祖母の意を迎へて、福岡の清夫婦の所行を非難したり、親戚の誰れもが祖母の味方になつて力を添へようとしないのを牴牾もどかしがつたりしてゐた。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「どうぞその後を、それから。」と聞く身には他事をいううちが牴牾もどかしく、にべもなく続きをうながした。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
牴牾もどかしいのはこっちだ、といったふうに寸分違わないように似せてゆく。それが遊戯になってしまった。しまいには彼が「松仙閣」といっているのに、勝子の方では知らずに「朝鮮閣」と言っている。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
伊沢とひざを並べて坐りでもすると、何となしぽっとした逆上気味のぼせぎみになり、自分の気持を婉曲えんきょくに表現することもできず、品よくもたれかかるすべも知らないだけに、一層牴牾もどかしさを感ずるのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)