海防ハイフォン)” の例文
海防ハイフォンの濁つた海の色を境にして、何もも虚空の彼方かなたに消えてゆき、これから、どんな人生が待つてゐるのか、ゆき子には予測出来なかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
フランスの船は、海防ハイフォンとか西貢サイゴンとかの、仏領交趾支那の港に寄る。そして、そこからまた、満期になったフランスの下士官どもや兵隊が大勢乗った。
日本脱出記 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
僕は、来週の火曜に海防ハイフォンを出るフランス・メールへ乗る筈になつてるんですが、それまでこの地方を中心にして少し調べものをしたいと思ふんです。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
引揚船が海防ハイフォンに寄ったとき、司令部にいる友達と約束ができていたような話だったわ
野萩 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
矛盾のゴミの吸ひかげんで、運のいゝ奴と、運の悪い奴が出来て来る。——海防ハイフォンだつて、あの船出についちやア、随分厭な根性こんじやうやつがゐたぢやないか。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
海防ハイフォン行きの列車が鉄橋を渡る音が聞える。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
まぶたに突きあげて来る熱いものを、時々外套の袖でこすりながら、海防ハイフォンから戻つて来た時の、心の渇きが、急にいまごろ涙になつて、とめどなく頬にあふれた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)