手負猪ておいじし)” の例文
芹沢といえども剽悍無比ひょうかんむひなる新撰組のかしらとまで立てられた男である、まして手負猪ておいじしの荒れ方である。敵は誰ともわからぬが、相手はそんなに多数ではない。
十人が二十人になり、三十人になり、最後には、飛道具や、さす又や、本職の捕物道具まで持出もちだして、一人の余吾之介を、手負猪ておいじしでも扱うように取詰めたのです。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
奥では又もやお葉の笑い声が聞えた。が、恋しい人のなまめかしい声も、熱したる彼の耳にはう入らなかった。復讐の一念に前後をかえりみぬ重太郎は雪を蹴立てて手負猪ておいじしのように駈け出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)