思惑おもはく)” の例文
お君は日頃から愼み深い、冷たい女でしたが、さすがに夫や世間の思惑おもはくにさいなまれて、萬一の場合には死んでしまひ兼ねまじき顏色です。
浩一の遺骨が來て盛んな葬式が營まれた時は、母のお柳の思惑おもはくで、靜子は會葬することも許されなかつた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
周囲まはりに集る子供等は、いづれも母親の思惑おもはくはゞかつて、互に顔を見合せたり、ふるへたりして居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
平次に何にか思惑おもはくがあると見て取つた八五郎は、老番頭の茂兵衞を始め、彌吉、定吉の三人を追つ立てるやうに、店の方へ行つてしまひました。
気掛りなは下宿の主婦かみさん思惑おもはくで——まあ、この突然だしぬけ転宿やどがへを何と思つて見て居るだらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「三輪の兄哥にも何か思惑おもはくがあるんだらう。ところで、お今には浮いた噂はなかつたのか」
敬之進の境涯を深く憐むといふ丑松の真実が知れてから、自然と思惑おもはくはゞかる心も薄らいで、斯うして給仕して居る間にも種々いろ/\なことを尋ねた。お志保はまた丑松の母のことを尋ねた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
庄司三郎兵衞の言葉は、傍に居る内儀の思惑おもはくを兼ねて、いかにもしどろもどろです。