思念しねん)” の例文
解明出来ぬほどの複雑な思念しねんが、胸一ぱいに拡がっては消えた。上衣を掛けた寝台の方に歩きかけながら、私は影のようなものを背後に感じて振り返った。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
窮極きゅうきょくして、彼の思念しねんは、そこへ行きついた。この境地には些々ささたる愛憎もなく現在の不平もなかった。早く健康にかえって、天意にこたえんとするものしかうずいて来ない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだその日の疲れのにじまない朝の鳥が、二つ三つ眼界を横切った。つばさをきりりと立てた新鮮な飛鳥ひちょうの姿に、今までのかの女の思念しねんたれた。かの女は飛び去る鳥に眼を移した。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)