幾回いくたび)” の例文
智恵子は痛む腹に力を入れて、堅く歯を喰絞りながら、幾回いくたび背後うしろを振返つた。町の賑ひは踊の場所に集つて、十間離れたらモウ人一人ゐない。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私はとくに手紙を差上げねばならなかったのでした。実は幾回いくたびも幾回もペンをったのでした。ペンを執りは執りながら、如何どうしても書くことが出来なかったのです。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
生命いのちは愛なれば愛するもののせしは余自身の失せしなり、この完全最美なる造化ぞうか、その幾回いくたびとなく余の心をして絶大無限の思想界に逍遙せしめし千万の不滅燈ふめつとうを以て照されたる蒼穹あおぞら
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)