塀越へいご)” の例文
門からじきに格子戸で、庭には低い立ち木の頂が、スクスクと新しい塀越へいごしに見られる。お作は以前愛された旧主の門まで来て、ちょっと躊躇した。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今し方彼が通つて来た町の人車の響きまでが、彼を送るべき所へ送り込んだ後の極めてそつけないリズムを塀越へいごしに伝へてゐた。彼は其所そこで二時間余も待たされた後隊長の面前に引き出された。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
その部屋は表庭つづきの前栽せんざいを前に、押入れ、床の間のついた六畳ほどの広さで、障子の外に見える古い松の枝が塀越へいごしに高く街道の方へ延びているのは、それも旧本陣としての特色の一つである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)