四面あたり)” の例文
小山と小山との間に一道の渓流けいりう、それを渡り終つて、猶其前に聳えて居る小さいみねを登つて行くと、段々四面あたり眺望てうばうがひろくなつて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
四面あたりは只もう真青の葦だ、葦だ、葦だ。世間の風と云う風は一つになって此処に吹くと云う位。それ夕立だ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
姉は話しながら裁縫しごとの針を止めぬのである。前に鴨脚いちょうの大きい裁物板たちものいたが据えられて、彩絹きぬ裁片たちきれや糸やはさみやが順序なく四面あたりに乱れている。女物の美しい色に、洋燈ランプの光が明かに照り渡った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)