印伝いんでん)” の例文
旧字:印傳
父親は思案にあぐねて来ると、道楽をしていた時分こしらえた、印伝いんでんの煙草入れを角帯の腰にさして、のそのそと路次を出て行った。行く先は大抵決まっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
懐中煙草が一つ——印伝いんでんかます赤銅しゃくどうあぶの金具を付けた、見事な品を町役人は平次に渡しました。
甲州は海を有たない山国で、甲府はその盆地ぼんちに位する都であります。町を歩いて店をのぞきますと、他の国には見かけないものが二つあります。一つは水晶細工すいしょうざいくで一つは「印伝いんでん」であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「忘れた、忘れた、印伝いんでんの煙草入を忘れてしまった」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黙って平次に渡した煙草入を開けると印伝いんでんかますには一パイ新しい刻みが詰ってあります。
「この懐中煙草入が物を言うぞ、印伝いんでんかますに銀煙管、こいつは下男の持つ品じゃねえ」