全生涯ぜんしょうがい)” の例文
すべては再び深淵しんえんの中に消えてしまった。前途には何物も認められなかった。全生涯ぜんしょうがいやみの中に陥って、彼はただ手さぐりに彷徨ほうこうした。
今のとしになるまで全生涯ぜんしょうがいの大半を暗いこの世界で過して来たというこの老人は、もう何事もあきらめているのであろうか、言葉少なにいつも笑っているような顔であった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
弟の注意で「悲愴交響曲パセティック・シンフォニー」と命名し直したシンフォニー、これこそは、チャイコフスキーの全生涯ぜんしょうがいの総決算で、その自伝であると言われ、一方にはまたその救いのない絶望感のために
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
自分が世間に踏み出してからの全生涯ぜんしょうがいがこの線の中に含まれているからである。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
(なあに、たかが五十円足らずの金じゃないか。いつまでやらないと言うのではなし、——よしまた全然それが払えないで終ったとしたところで、それが僕の全生涯ぜんしょうがいからて、どれほどの不善でもありやしない)
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)