依怙地いこぢ)” の例文
「遲いからもう止さうと斷りましたが、多の市さんは依怙地いこぢな方で、こんな大雪にわざ/\來たんだからと、無理に入り込んで——」
北へ折れると生国魂いくたま神社、神社と仏閣を結ぶこの往来にはさすがに伝統の匂ひがかびのやうに漂うて仏師の店の「作家」とのみ書いた浮彫うきぼりの看板も依怙地いこぢなまでにここでは似合ひ
木の都 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
どれが勝ちを占めるか、その爭ひは激しかつたが、或る冷酷な、皮肉な、依怙地いこぢな、斷乎とした感情が現はれて、彼を征服してしまつた。それは彼の昂奮を鎭め、顏色を落ちつけた。
人手に渡さなければならなくなつた鈴むらさん——どういふわけでむらと平假名で書かなければならないのかわからないが、甚しくかうした事に依怙地いこぢな久保田君は、鈴村さんと書いたのでは
私はやぶれかぶれに依怙地いこぢになつて肩をそびやかして己が道を歩いた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
斷つても依怙地いこぢで歸らないから仕樣事なしにお前が彌八の代りに揉んで貰つて、何んとはなしに口止めの心算つもりで二百はずんだ
そして下女のお源は達者で依怙地いこぢな中年女といふ印象を受けた外に、何んの手掛りも手繰たぐれず、その日の夕刻にぼんやり明神下の錢形平次の家へ歸つて來ました。
「圓三郎は下男部屋にゐるし、お銀はお勝手と自分の部屋にゐるから、顏も合せなかつたといふことです。それに、あの下男は、妙に依怙地いこぢで、先代の旦那のことばかり引合ひに出すから、家中の嫌はれものですよ」