一望いちぼう)” の例文
その橋の上流は藪につづいた外は、一望いちぼうの白い石ばかりの川原と土手との続きであった。かれら姉弟は橋の袂にぼんやりちつくしていた。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そう言えば、栗の木の幹を利用して電話が設けてあり、此の草原からは湾内も大空も一望いちぼうの中にあった。草いきれの中を、私はその男に近づいた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
その夜は珍らしく雪が晴れて、雲間から淋しい冬の月が洩れている……一望いちぼう漠々ばくばくたる広野の積雪は、寒い冴えた月の光りをんで薄青く輝いていた。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
人間の歴史はあらゆる能力の活動を含んでいるのだから政治に軍事に宗教に経済に各方面にわたって一望いちぼうしたらどういう頼母たのもしい回顧かいこが出来ないとも限るまいが、とくに余に密接の関係ある部門
『東洋美術図譜』 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)